第39話 VR訓練
政府のメールに回答した後、オレたちはいつも通り学校の訓練場にやってきていた。戦闘服を着て準備運動をはじめる。
「そういえば、陸人くん」
「なんですかー?」
「ステータスボーナスの割り振りってしたの?私からの愛のステータスボーナス♡」
「……あー、まだ悩んでるとこです」
「そうなんだ?」
そう、オレは、桜先生が加入してくれたボーナスポイントをどう割り振るのか悩んでいた。今のオレのステータスはこんな感じだ。
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氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:15歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:63(B+)
防御力:42(C+)
持久力:93(A+)
素早さ:53(B)
見切り:24(D)
魔力:0(E-)
精神力:77 (A-)※割り振り不可
統率力:269 ※割り振り不可
総合評価:B
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グランタイタンと戦うために、一年間、準備してきたことで結構ステータスは上がったと思う。実際、かなり強くなったと思うし、今のところ不満は感じていない。グランタイタンとの戦いを思い出すと、もう少し持久力があれば余裕を持って勝てたような気もするが、あいつが特殊な敵のような気もするし、安易に持久力に割り振るのは違うように感じていた。
「はい。どこのステータスに割り振るべきなのか、悩み中です。色々と相談に乗ってもらえると嬉しいです」
「もちろんよ♡いつでも言ってね?いつでも駆けつけるから。いつでも」
「桜ちゃん、邪魔なんですけど?りっくん、グランシールドの練習手伝って」
「あいあいさー」
「ちょっと待って、2人とも」
2人で訓練を始めようとしたところ、鈴が声をかけてきた。
「なぁに?鈴ちゃん」
「もう一つダンジョンを攻略しないといけないって決まったんだし、今日はVR訓練にしましょ」
VR訓練というのは、調査済みのダンジョンに出現するモンスターをVR空間に投影し、そいつらとゲーム感覚に戦う訓練だ。ゲーム感覚とは言っても、戦闘服とリンクさせることで、攻撃を喰らうとグーパンされたような痛みは走るようになっている。
「了解、そういえば最近やってなかったな。やるかー」
「りょうかーい」
オレたち3人がVR訓練の準備を始めると、
「VR訓練……」
桜先生が自分の二の腕を握って、少し暗い顔をした。
「桜先生?」
「……え?あ!なんでもないのよ!うん!じゃあ、私も準備しないとだよね!」
何かを誤魔化すように、あたふたしながら準備をはじめる桜先生。不安そうに見えたのは、気のせいだったのだろうか?
気になって桜先生を見ていると、見慣れないデバイスを取り出して、頭の上にセットした。そのデバイスは、天使の輪っかのような形で、桜先生の頭の上でふわふわと浮いて定着する。ドーナツ型のそれは、本体がグレーで、ところどころに細い線が入っており、そのラインがピンクに光っていた。ワンポイントで桜の花びらのマークも描かれている。
「なんですか?それ?」
「えっと、オペレーター用の脳波デバイスなんだけど、これでカメラを操作して、みんなの後ろからついて行こうと思って」
言いながら、両手で丸いロボットを持ち上げて見せてくれた。サッカーボールよりも少し小さいそいつは、正面に大きなカメラが付いていて、桜先生の天使の輪っかデバイスと似たデザインをしていた。ところどころに桜の花びらマークが散りばめられている。
桜先生がロボットの電源を入れると、そいつはふわふわと浮いてオレの周りを浮遊した。
「へぇー、ダンジョンに潜るときはこいつがついてきてくれるんですね?」
「そうね。私は入れないから、その代わりに」
「了解しました。それにしても、そのデバイス、珍しい形ですよね。たしか、はじめて桜先生に会った時もつけてましたよね?」
「うん、そうだね……学生のときも使ってた……あはは、だからその時の勢いでちょっと可愛くし過ぎたかな……似合わないよね……もう、大人なんだし……」
なんだか、気恥ずかしそうだ。
「いや、そんなことは思ってませんけど。普通に可愛いな、と」
「ホントに!?」
おお?桜先生に詰め寄られてしまった。
「可愛いって、思ってくれるかな!?」
「え?ええ……」
デバイスが、と言おうとしたが、さすがに違うと理解した。えっと、えっと……
「桜先生の綺麗な髪の色とマッチしてると、思います?」
オレは、少し元気がなさげな桜先生を、元気づける意味も込めて、慣れない褒め言葉を述べてみる。
「ッー!すっごく嬉しい!陸人くんに可愛いって言ってもらえて!」
今は元気に見える。さっきの暗い顔は、ほんとに気のせいだったのだろうか?
「あの、なにか不安があるなら言ってくださいね?」
「え?な、なな!なんのことかな!よーし!準備万端!それじゃ!はじめるよー!」
桜先生がまた何かを誤魔化して、着席した。こちらを向いてグッと親指を立てたので、脳波デバイスを使い、オレたちの視界を桜先生のデバイスと共有させる。オレたちの方も準備万端だ。
オレたち3人は、左右前後に動くとそれに合わせて同じ速度で稼働するランニングマシンのような床の上に立っている。これで擬似的にダンジョンの中を歩いたり、モンスターと戦ったりすることができるのだ。
「とりあえず、目白駅ダンジョンでウォーミングアップしましょうか」
「そうだな」
鈴の提案を聞いてから、脳波デバイスのVRモードをオンにする。すると、眼球の中に目白駅ダンジョンのゲートが表示された。
「みんな、準備はいいか?」
「いいよー」
「こっちも大丈夫よ」
「……」
「桜先生?」
「え?ああうん!私も大丈夫!」
何か引っ掛かりを感じたが、オレたち3人はいつも通りゲートをくぐってダンジョンの中に侵入した。
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