第31話 記者会見
救急車の近くで解放された人たちのことを眺めていたオレたちだったが、しばらくしたら、それぞれの家族が迎えにきてくれて、解散となった。
鈴の親父さんは厳しい顔で登場して、鈴はしゅんとしていたが、3人そろって頭を下げたら、「まぁ……立派なことではあると思うが……」みたいなことを言って、鈴を連れて帰っていった。
咲守家と的場家はというと、オレの家に集まってお祭り騒ぎとなった。うちの両親とゆあちゃんの両親は「誇らしい」と褒めてくれ、「でもすごく心配だった」と抱きしめてくれた。
申し訳ないと思いつつも、「うみねぇちゃんを助けるまでは続ける」と親たちに向かって宣言する。みんな、「頑固者!」とか「クソガキ!」とかからかってきたけど、最後には応援してくれた。このやりとりも何度目のことだろうか。
自室に戻ると、鈴から、〈パパにめちゃくちゃ怒られた。ぴえん。〉というメッセが届いていることに気づく。
オレたち3人はグループチャットで通話モードを開き、会話をはじめた。2つのモニターを空中に浮かせて、2人の顔を見ながら、今日の戦いについて振り返った。まぁ、振り返り、というよりは各自の自慢話大会だった。〈あのタイミングで弱点に当てたのは凄かった〉とか〈最後のゆあちゃんの一撃は神がかってた〉とか、お互いにお互いの功績を讃えあった。
夜は更けていく。
オレたちは英雄になった。そして、家族を助けることが現実味を帯びてきた。そのことについて、興奮気味に語り続けたのだった。
♢
翌朝、高校に向かおうとすると、家の前にリムジンが停まっていた。
「おはよ」
鈴が窓から顔を出したので、「おはー」と声をかけて車内に乗り込む。ゆあちゃんもすでに乗っていて、オレは、いつも通り窓際の席に座った。2人は1番後ろに並んで座っている。
「おはよ、りっくん。よく眠れた?」
「ううん。みんなで話したあと、興奮して結局あんま眠れなかった」
「だよね〜。ゆあも、ふぁぁ……」
「2人とも、学校についたらその眠そうな顔、どうにかしなさいよ?たぶん、インタビューがあるからね」
「へいへい」
「ホントにインタビューとかあるのかな……うまくしゃべれるか不安だよ……」
「断ることはできると思うわ。でも、歴代の踏破者は3人ともインタビューに応じてる。わたしたちもやるべきでしょうね」
「まぁ、そうだよなぁ。あのこともお願いしたいし」
「一応言っておくけど、誰にも相談せずに発言するんだから、怒られたり、世間に叩かれても知らないわよ?」
「ま、そこはどうでもいいかな。問題はちゃんと政府に伝わるかだ」
オレたちは昨晩、今日行われるであろうインタビューについて、話す内容を決めていた。上手くいくかは不明だが、挑戦する価値はあるだろうと思っている。
インタビューの問答について車内でおさらいしていると、学校の正門が見えてきた。ここからでもカメラを構えた報道陣が沢山いることがわかる。
「いっぱいいるね……」
「正門から入るのはやめときましょ。裏口に回ってちょうだい」
鈴の指示で自動運転AIが「かしこまりました」と反応し、裏口の方に車を回してもらう。裏口には報道陣が集まっていなかったので、すんなり学校に入ることができた。車から降りて教室に向かおうとしたら、すぐに教師に呼び止められた。
職員室に3人とも連行され、今日のインタビューを受ける気があるか、確認される。オレたちは頷き合ってから、その申し出を承諾した。
♢
その日の午後、14時から学校の体育館で報道陣によるダンジョン踏破者のインタビューが始まった。
壇上は使用せず、報道陣と同じ高さの床に長い机をを設置してもらい、そこに3人並んで腰掛ける。オレが真ん中で、左にゆあちゃん、右に鈴が座った。
パシャパシャとフラッシュが眩しい。日本全国のテレビ局が来ているんじゃないかと思うほど、大勢の報道陣が押しかけていた。体育館の左右には教師陣と警備員が立ち並び、オレたちのことを守ってくれている。
「それでは、ダンジョン踏破者3名に対する記者会見を始めさせていただきます」
先生の1人が司会を担当し、インタビューが始まった。報道陣から多くの手が上がる。順番に質問を聞いて、丁寧に答えてゆく。
「パーティは3人だけなのか」、「どんなボスだったのか」、「どうやって倒したのか」、「なぜ目白駅ダンジョンを選んだのか」、そんな感じだ。
基本的には鈴に答えてもらい、オレとゆあちゃんはあまりしゃべらない。1番頭がいい鈴が受け答えした方が、ボロが出ないだろうという話になったからだ。
そして、2時間近い記者会見が終わりに近づいてくる。司会の先生が場をまとめ、「最後に皆さんに伝えたいことはありますか?」と、オレたちに話を振られた。鈴に促されたので、オレはマイクを手に取って立ち上がる。2人も立ち上がった。
「オ……ボクたち3人は、先ほど話した通り、ダンジョン被災者の1人です。だから、同じ境遇の方の気持ちは痛いほどわかるつもりです。だから、この身勝手な発言を許していただきたい。政府の皆さん、どうかボクたちの家族が囚われている東京駅ダンジョンを開放していただけないでしょうか」
オレたち3人は一緒に頭を下げる。
「しかし!東京駅ダンジョンは多くの学生の犠牲を出している危険なダンジョンです!あなたたちのように有望な方たちでしたら!他のダンジョンに挑戦すべきでは!?」
記者の1人がそんなことを言う。想定通りの質問だった。
「そのご意見はごもっともです。ですが、ボクたちは、自分たちの家族を助けるために今日まで訓練してきました。そして、命懸けで戦っています。何に命を懸けるのかは、自分たちで選ばせてもらえないでしょうか?」
「……」
報道陣から追加の質問はない。〈命を懸ける〉という発言に息を吞んでいるように見えた。
「どうか、ボクたちに家族を助ける機会を与えてください」
再度3人で頭を下げる。多くのシャッターが切られる音がした。顔を上げると先生が退室を促すのでマイクを置こうとする。すると、最後にある記者が質問を投げかけてきた。
「今後!パーティは増やさないのでしょうか!」
「え?いや、オレたちと命を懸けて戦ってくれる人なら、歓迎します」
ふと、素で答えてしまう。再度、〈命を懸ける〉という言葉を聞いて狂気を感じたのか、記者は口をつぐんだ。
そして、オレたちは体育館から退室する。これで、東京駅ダンジョンが開放されることを願いながら、何も喋らずに教室までの廊下を歩いていった。
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【あとがき】
一章まで読んでいただきありがとうございます♪
ついに初めてダンジョンを攻略した陸人たち。最後の柚愛ちゃんの一撃、あれで倒せたのは、ただの偶然だったのか……?
二章からはもっと仲間も増えて、にぎやかになっていきます!これからの展開も乞うご期待ください!
ココまで読んで「面白い!」と思っていただけましたら、「★で称える」をいただけないでしょうか!皆さんの応援が書籍化に繋がっていきます!
一章まで読んでくれた皆なら★くれるよねぇ!?(°言°)(圧)
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