第19話 幼馴染の初めての

 新橋駅ダンジョンのゲートをくぐると、そこはもう異世界、ダンジョンだ。


 ザザァ……波の音が聞こえてくる。オレたちが立っているのは砂浜だ。青い海が目の前に広がり白波を立てている。


 空を見上げると5メートルほどの高さに青い膜が張っていた。ゆらゆらと揺らいでいる。よく見ると、それは水で、中には魚のようなものが泳いでいた。つまり、空にも海があるのだ。地上を見渡すと、砂浜とやしの木くらいしか見当たらない。やしの木は葉っぱが青色で普通の植物でないことがすぐにわかる。


「ここがダンジョン……」


 隣のゆあちゃんが不安そうに弓を握りしめた。


「大丈夫。ゆあちゃんのことはオレが絶対守るから」


「う、うん。りっくん、お願いね?」


「ふんっ。なら、わたしも守ってもらおうかしら」


「おまえは自分で戦え」


「ひどい男ね。ゆあはダンジョンに入るのははじめてなのよね?」


「うん」


「なら今日は、ゲートのそばからはなるべく離れず、雑魚の相手だけにしておきましょ」


「ああ、オレもそのつもりだった。最初から無理はさせれない」


「アホそうに見えて、意外と考えてるのね。じゃ、その辺に移動するわよ」


 双葉の後ろについて波打ち際に近づく。


「この辺りは魚とトカゲが合体したみたいなモンスターが出るから、それを倒すわよ。ゆあ、武器を構えて」


「う、うん」


 ゆあちゃんが弓を構え、腰のポーチから鉛筆くらいの棒を取り出す。それを弓にセットすると、カシャカシャと変形していって矢の姿に早変わりした。


 しばらく待っていると、海の中から、黒い影が姿を現す。ゆっくりと砂浜に上がってくる。双葉が言ったように、四足歩行の魚だった。大きさは小型犬くらいで丸い目をこちらに向けて、口をパクパクしながら近づいてくる。


「あれがモンスター……」


「あんなの雑魚だから、安心して?」


 震えるゆあちゃんの肩を触って安心させる。


「う、うん……」


「そうは言っても、噛まれると肉が引きちぎられるわ。デカいピラニアだと思って。そんなに素早くはないから落ち着いて狙うのよ」


「うん」


 ゆあちゃんがアーチェリーの弓を構える。慎重に狙い、モンスターに向かって矢を放った。バシャ!一撃目は敵に当たらず、海に突き刺さる。モンスターがゆあちゃんを見て、こちらに方向転換し向かってきた。


「やばっ!?」


「大丈夫!もしここまで来てもオレが倒すから!次!」


「わ、わかった!」


 すぐに次弾を装填し、深呼吸してから矢を放つ。ズドン!今度は魚モンスターの頭に命中し、そいつは光の粒となって消えていった。


「や、やった!やったよ!りっくん!」


「さすがゆあちゃん!やったね!」


 オレたちは2人してハイタッチした。


「鈴ちゃんも!ありがと!」


 ゆあちゃんが双葉に近づき、ハイタッチを求める。


「え?わたしは別に……はぁ、はいはい、やったわね」


 双葉は、少し恥ずかしそうにしながら、片手でハイタッチに応えてくれた。ゆあちゃんはニッコニコだ。


「次はあんたの力を見せて見なさいよ」


「んー……こんな雑魚で?」


「随分自信があるようね?なら、これでどう?」


 双葉がニヤリと笑った後、二丁拳銃を引き抜き、海めがけて弾丸を放ちまくった。あいつの銃は近代的な光学銃で、銃口からは、黄緑色の光弾が飛び出していく。何十発も撃ちまくったあと太もものポーチに銃をしまい、「どーぞどーぞ」と片手を差し出した。


 海の中から、さっきの魚型モンスターが大量に姿を現す。10匹以上はいそうだ。


「双葉、ゆあちゃんの隣に」


「了解」


 オレは肩の双剣を抜いて構えた。その2本を1番遠い敵に向かって投げつける。それと同時に腰の2本を抜いて走り出した。


「らぁ!」


 走りながら、手前の1匹を斬り裂く。足は止めない。そして、また双剣を投げた。奥に投げた2本が敵を切り裂いて戻ってくる。パシッ!それを受け取りながら次の敵へと向かった。2体同時に斬り裂き、また双剣を敵に向かって投げ、戻ってきたものとスイッチだ。

 今度は、投げた剣に追いつく勢いで走り、ジャンプ、持っている剣を腰にしまってから剣をキャッチし、最後の一体をクロスに斬り裂きながら着地した。

 13匹いたモンスターはあっという間にバラバラになり、オレの後ろで光になって消えてゆく。


 オレは、キマッタ、と言わんばかりのドヤ顔をしながら2人の元へと戻ることにした。


「どーよ!」


「思ったより化け物で草」


 そう言う双葉は全然笑ってなかった。


「だよね。人間の動きじゃないよ」


「うん、キモい」


「褒めろよ!傷つくよ!」


「はいはい、すごいすごい、つよいつよい。パチパチ」


 なんか、無表情で拍手してくるが納得いかない。


「わかったわ。あんたの、あんたたちの仲間になる。ううん。仲間にして欲しい。わたしと一緒に戦ってくれる?」


「なんだぁ?突然礼儀正しくなったな。まぁいいけど。おまえの実力も見せろよ」


「わかったわ」


 それから、双葉の戦い方も見せてもらうことにした。こいつは、二丁拳銃を使いながら走り回る戦法をとっていて、かなり身のこなしが素早い。オレほどではないが、動きが洗練されていて、アクロバティックな動きだった。バク転とかバク宙とかして敵の攻撃を避けている。


 数匹のモンスターを倒し、戦い終わった双葉が戻ってくる。


「どうだった?」


「すごいすごい!鈴ちゃんも強いんだね!それに何あの動き!あれだ!パルクールみたいな!」


「まさにそれよ。戦闘訓練ばかりしてるとパパに怒られるから、部活と称してパルクールをやってるの。戦いで役に立つからね」


「なるほどなぁ。うん、おまえが強いことはわかった。これからよろしく!」


 オレは右手を差し出す。握手しよーぜ!


「……今日はもう帰りましょ」


 双葉はオレの右手を一瞥してからゲートに向かって歩き出した。オレの右手は虚しく空を切る。


「あれ?ぐぬぬ……」


「まぁまぁ、りっくん。女の子に気軽に触るのはNGだよ」


「女ってめんどいなー……」


「はいはい。ゆあたちも戻ろ?ノンデリっくん」


「変なあだ名やめてもろて」


 言いながら、オレたちはゲートから現実世界に戻ることにした。



 ゲートの外に出て、オレたちは帰り支度を始める。上着を羽織り、スケボーを手に取った。


「じゃ、わたしはココで」


「は?待て待て。クラスに入ってもらう約束だろ?」


「あー、それはまた今度ね。陸人、ゆあ、あんたたちの連絡先教えなさいよ」


「いきなり呼び捨てかよ……まぁいいけど」


 オレたちは、左手のデバイスを近づけあって連絡先を交換する。


「あとでグループ作っておくね♪」


「うん、よろしく。あと、陸人」


「なんだ?」


「わたしのことは鈴、でいいから」


「あぁそう。なら、鈴、またな」


「……」


 名前を呼ぶと、じっと見つめられる。


「……なんだよ?」


「別に……じゃあね」


 そして、鈴のやつはスニーカーを触ってから、駅から飛び降りていった。


「あの靴いいなぁ〜」


「お小遣いで買えば?」


「そんなに貰ってないよ〜。りっくん?買って?」


 急に上目遣いで両手を口の前でグーにしながらおねだりしてきた。効果音をつけるのなら、キュルルン⭐︎だろう。


「なんかイラつく」


「なんで!?可愛いでしょ!ギャルかわでしょ!」


「はいはい。てか、そのギャルキャラなんなの?昔は普通だったのに」


「それは!……(小声)それは、見た目から強くならないとって……思って……」


「なんて?」


「もういい!帰るよ!バカりっくん!」


「うぃ〜」


 そしてオレたちは、空飛ぶスケボーに乗って駅を降りた。


 帰りは修行がてらランニングだ。隣のゆあちゃんはスケボーに乗ってるけど、まぁ今日は初戦闘だったし許してやろう。


 それにしても、このまま鈴がクラスに加入してくれれば、またステータスボーナスが貰えるんだよな。だとしたら、オレはもう一段階強くなることができる。オレはそれが楽しみすぎて、ワクワクしながら夜の町を駆けていった。

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