第7話 ステータスポイント

「お母さん!訓練室使うから!」


 オレは、自宅の玄関を開けるなり、リビングにいるお母さんに大きな声で呼びかけた。


「はーい。咲守空、りっくんの訓練室使用を許可します」


「ありがと!」


 オレは許可をもらってから、また靴を履いて、すぐに裏庭へと向かう。


 裏庭には、地下シェルターへの入り口のような銀色の箱が設置されており、そこに近づく。扉の前に行くと、「咲守陸人、咲守空より入室許可が出ています。解錠します」とアナウンスが流れた後、扉が開いた。

 扉の向こうは地下に続く階段だ。手前から順番に照明が点灯しているが、それに追いつく勢いで階段を駆け降りた。1番下まで降りて、もう一枚の扉に手をかざす。機械音を立てて開いた扉の先は、道場ほどの広さがあるオレ専用の訓練場だ。真っ白なパネルに囲まれた部屋で、右手にトレーニング機材、左手に実践用の武器などがある。正面には対人戦闘訓練用のロボットが一体、充電スポットに入って正座していた。


「アトム!おはよ!」


 ピピ、起動音がなり、ロボットが立ち上がる。グレーのシンプルな人型ロボットだ。身長は180センチほどで、今のオレよりだいぶ大きい。両耳についている通信アンテナがコイツのトレードマークだ。


「おはようございます。陸人様。本日も訓練ですか?」


「うん!新しい力を試したくって!」


 オレは、言いながら武器の保管スペースに移動し、戦闘服に着替えだした。戦闘服と言っても、見た目は普通のインナーだ。今着てる服を全部脱いでから、長袖の黒いTシャツとタイツを履いて、起動シークエンスを済ませる。すると、服がピタッと身体に密着し、模様のように刻まれたラインが水色に光った。


 この戦闘服は、軍事用に開発されたもので、ダンジョンが義務教育化してから高校生に無料支給されるようになったものだ。着ると身体能力が格段に上がり、戦う上では必須アイテムといってもいい。なぜ小学生のオレがこんなものを持っているというと、防衛大臣の父が裏で手を回してくれたおかげだ。父は、この訓練施設も大金をはたいて作ってくれた。


「陸人様、本日はどのような訓練を?」


「とりあえず短剣同士の戦闘で!あ!でも少し待ってて!」


「承知しました」


 オレは、はやる気持ちを抑えながらエニモでモニターを表示する。もちろん、《クラス替え》スキルの効果を確認するためだ。


「ステータスボーナスの割り振りは、えーっと……ここか!」


―――――――――――――――――――――――――

咲守陸人

 割り振り可能なステータスポイント:19ポイント

―――――――――――――――――――――――――


 と表示されている画面を見つける。

 よし、準備は整った。じゃあ、どのステータスにポイントを割り振るのか考えよう。現在のオレのステータスはこうだ。


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14(E+)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:93(E-)

総合評価:D+

――――――――――――――――


 ゆあちゃんがクラスに入ってくれたおかげで統率力が上がっているのがわかる。それ以外はさっき確認したのと同じだ。さて、どのステータスにポイントを割り振るべきか。


 昨日の戦いを思い出すと……

 オレに足りないのは、〈攻撃力〉かな。


 昨日の戦いでは、黒い狼に飛び乗ったとき、たしかにあいつの頭には短剣が突き刺さった。しかし、その一撃じゃあ倒しきれなかった。もし、もっと腕力があったら倒しきれたはずだ。


「よし!まずは攻撃力に全部振ってみよう!」


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14+19=33(E+ ⇒ C-)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:93(E-)

総合評価:D+ ⇒ C-

――――――――――――――――


――――――――――――――――

この割り振りでよろしいですか?

Yes or No

――――――――――――――――


「YESっと!」


 ボタンを押すと、すぐに身体がほんのりと発光した。


「おお!?お〜?」


 数秒だけ発光した身体はすぐに元通りになる。


 今のでステータスが向上したのだろうか?今のところ、なにかが変わったという実感はない。両手をグーパーグーパーと開いてみると、少し違和感を覚えた。


「握力が、上がった?……アトム、握力計」


「承知しました。どうぞ、こちらです」


「ありがと」


 アトムから受け取って、思い切り握力計を握りしめた。

 ピピ。計測音が鳴る。握力計の測定結果を見ると、


「ご、55.9キロ?は?……アトム、オレの最高握力っていくつだったっけ?」


「陸人様の過去最高の握力数値は、38.3キロです。記録更新ですね」


「10以上上がってる……アトム!パンチングマシン!」


「承知しました」


 アトムが壁を指差すと、パネルが後ろに凹んでから横に開き、天井のレールを伝ってパンチングマシンが目の前までやってくる。

 オレは、緊張とワクワクの入り混じった気持ちで、構えをとった。

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