第4話 幼馴染はギャル
オレは絶望した顔でゆっくり立ち上がり、ドアに近づき手を上げる。降参のポーズではなく、ドアを開けるためだ。ウィーンと小さい駆動音を立ててドアが開いたので、とぼとぼ階段をおり、リビングへと向かった。
「あ、りっくん、おはよ〜」
「おはよ……」
「どうしたの?眠れなかった?あ!昨日の怪我!やっぱり酷かったのかしら!病院いかないと!」
「大丈夫!大丈夫だから!お母さん!ちょっと訓練で失敗しただけだから!」
オレの頭を触って、心配そうにしているのは、オレの母親、咲守空(さきもりそら)だ。昨日、血を流して帰ってきたから心配をかけたようだ。もちろん、ダンジョンに忍び込んでいるなんてことは話していない。
「オレはダンジョンを攻略する戦士になるんだから!あれくらい平気だよ!」
「でも〜……お母さん心配だわぁ……」
「大丈夫。オレがうみねぇちゃんを助けるから。お母さんは安心して待ってて」
「……そうね……りっくんにばかり頼ってごめんなさい……」
膝をついて、申し訳なさそうにしながら、頭を撫でてくれた。
「大丈夫、オレがやりたいことだから」
「うん……りっくんは強い子ね……えっと、それで、なんで暗い顔してたの?なにか悩みごと?」
「あーうん……そういえばオレって友達いないなって、自己嫌悪してて……」
「何言ってるの?」
「なにが?」
「ゆあちゃんがいるじゃない?」
「ゆあちゃんは幼馴染だよ?」
「お友達でしょ?」
2人して首を傾げ合う。
「……たしかに……」
オレは、あまりに身近過ぎて思いつきもしなかった幼馴染のことを思い出した。
そうか!あいつがいた!ゆあちゃんに《クラス替え》スキルのクラスに入ってもらえばいいんだ!
「ありがと!お母さん!」
そしてオレはすぐに玄関に向かって走り出した。玄関を出て、道路に出る。幼馴染のゆあちゃんの家はすぐ隣で、オレたちは両方とも一軒家に住んでいた。
隣の家の門を開けて、チャイムを鳴らしてから、返事を聞く前に玄関を開けた。
「こんにちはー!」
「あら、りっくん、いらっしゃい」
ゆあちゃんのお母さんがフライパン片手にリビングから顔を出す。
「うん!おばさん!ゆあちゃんいる?」
「2階の自分の部屋にいるわよー」
「ありがと!お邪魔します!」
その勢いのまま、靴を脱いで2階へと急いだ。階段を上がりながら声をかける。
「ゆあちゃーん!」
「へ?りっくん?ちょ!ちょっと待って!今はダメ!」
なんか聞こえてきたがかまわず扉を開ける。ウィーン。
「ゆあちゃん!ちょっと相談があるんだけど!およ?」
オレの目の前にはスカートを履こうとしてつまずいたのか、パンツ丸出しで、すっ転んでいるゆあちゃんがいた。子どもにしては派手なピンクと黒の豹柄パンツを履いている。
この女の子は、的場柚愛(まとばゆあ)、オレの幼馴染だ。幼稚園の頃から仲良くしていて、昔からゆあちゃんと呼んでいる。髪の色は金髪で、ウェーブがかった髪をサイドテールでまとめている。そのサイドテールは、胸元くらいまでの長さまで伸ばしていて、クルクルと巻いていた。
本人曰く、「ギャルになるから形から!」とのことだ。あのパンツもギャルを意識してのことだろうか?
地面にへばりつきながらこちらを振り返るゆあちゃんは、真っ赤な顔でわなわなと震えていて、ピンク色の目に涙を溜めていた。たぶん、恥ずかしいんだと思う。オレは恥ずかしくないので話を続けよう。
「あ、ごめんね、着替え中に。ちょっと今いい?オレ!すごい力を手に入れたんだ!」
「……か……」
「え?」
「ばかー!りっくんのえっちー!ママー!おばちゃーん!りっくんが着替え覗いてきたー!警察!警察呼んでー!」
「へ?いやいや!パンツくらいでやめてよ!大きな声出さないで!」
「くらいってなに!?ひどい!さっさと出てけー!」
「あ、あー、うん。わかった」
オレは、すん、と冷静になって扉から外に出る。女の子は難しい生き物だ。パンツを見たくらいでなんだと言うのだろう?
「ふふ、りっくん、ゆあにはちゃんと謝った方がいいわよ?」
階段を上がってきたおばさんがオレを見て笑っていた。
「そうなんですか?」
「そうよ。ゆあだって、もう大人になりかけてるんだから、好きな男の子にパンツ見られたらドキドキしちゃうものよ?」
「好きな男の子?」
ウィーン。ドアが開く。
「ママ!何言ってるの!?バカりっくん!もういいから部屋入って!」
「あーうん。お邪魔します」
「ふふ、なかなか進展しなくって、面白い子たちね」
オレはおばちゃんが笑っているのを横目にゆあちゃんの部屋へ入れてもらった。
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