第3話 最年少《スキルホルダー》になった男

「スキル《群れの統治者》結局これなんなんだ?」


 ダンジョンではじめて強敵を倒した翌日、オレは、自宅のベッドの上であぐらをかいて頭を捻っていた。疑問を口にしたことがトリガーだったのか、頭の中に声が聞こえてくる。


『スキル《群れの統治者》自身が群れのリーダーとなり、群れを増やしていくことで、自身の能力を強化することができるスキルです。群れの数が多いほど効果は大きくなりますが、一定の信頼関係がある生物しか群れに加入することはできません』


『お?おぉ〜……声が頭に直接……不思議だ……もしもし、こんにちは、あなたは誰ですか?』


 オレは事前にネットで調べていたこともあり、この現象についてはあまり驚いてはいなかった。

 唯一のダンジョン踏破者曰く、スキルを取得すると頭の中に直接声が聞こえ、スキルについて説明してくれる、と言う。まさに、今オレが体験していることだ。


『私はダンジョン管理者よりスキルの説明を任されている解説者です。許された範囲内でスキルの説明を担当しております』


『ほほう?とりあえず、そのダンジョン管理者とかいうやつと話せるかな?ダンジョンを消せって言ってやりたい』


『その要求は許可されていません』


『……くそっ……わかった。まぁ今はいいや。それで、その群れの統治者?だっけ?そのスキルなんだけど、群れとかどうとかって言い方、なんとかならない?オレたち人間は群れって言葉はあんまり使わないんだよ』


『わかりました。あなたが理解しやすいよう、インターフェースを変更します。情報表示デバイスを開いてください』


『情報表示デバイス?あぁ、エニモのことか……』


 オレは左腕に取り付けていた細長いデバイスを人差し指で触る。すると、すぐに水色のモニターが空中に投影された。これはAnywhere monitor、通称エニモと呼ばれる製品で、空中でも水中でもどこでもモニターを表示できるデバイスだ。腕時計のような小さい筐体の中に、高性能PCと同じだけの演算力を持つ優れものであり、2261年現在では小学生のオレでも所有するほど普及している装置である。


 青白いモニターには、〈現在、スキル、群れの統治者のインターフェースを咲守陸人の知性に合わせて変換中〉と表示されていた。ローディングバーが100%となり、情報が更新される。


 表示されたのは、5×6の計30個の四角い箱が並んだ画面であった。1番上の列の真ん中に咲守陸人、とオレの名前が記載されており、それ以外の四角の中は空白だ。

 画面の1番上には、スキルクラス替えと記載があった。


『クラス替え?』


『群れの統治者、という名称をそのように変更しました。スキルの効果は変わっておらず、あくまであなたの身近な言葉に変換した結果です』


『なるほど……オレの名前のところに学級委員って書いてあるのは?』


『リーダー、ということですね』


『ふむ……それで?これをどうすればいいんだっけ?』


『まずは、あなたの名前をタップしてください』


『了解』


 オレは自分の名前をタップする。すると、名前の横にステータスのようなものが表示された。


――――――――――――――――

氏名:咲守陸人(さきもりりくと)

年齢:12歳

性別:男

役職:学級委員

所有スキル:クラス替え

攻撃力:14(E+)

防御力:19(D-)

持久力:68(B+)

素早さ:23(D)

見切り:8(E)

魔力:0(E-)

精神力:65(B+)

統率力:0(E-)

総合評価:D+

――――――――――――――――


『ふむふむ、これがオレの今のステータスってことか』


『はい。クラスに加入した人物のステータスは自由に確認することができます』


『大体の数値はなんとなくわかるけど、見切り以降の四つはよくわかんないな』


『まず、見切りについては敵の攻撃を予測する能力です』


『未来予知みたいなもの?』


『いえ、敵の予備動作などから次の動作を予測する武人特有の能力です』


『なるほど』


『次に魔力、これは魔法を使う場合のMPのことですね』


『おお!マジか!じゃあ!これを育てればオレも魔法を使えるってこと!?』


『その質問には回答が許されていません。次に精神力、これは窮地に立ち向かう心の強さを表します。唯一、ステータスボーナスを割り振ることができない能力値です』


『ステータスボーナス?』


『それについては後ほど説明します。最後に統率力、これはクラスに在籍する仲間たちにどれだけ信頼されているか、好かれているか、を現す数値です。現在はメンバーがあなた1人なので0となっています』


『ふむふむ』


『この統率力をあげることで、ステータスボーナスが発生し、あなたの能力を向上させることができます』


『どゆこと?』


『つまり、仲間を増やし、好かれれば好かれるほど、攻撃力や素早さなどのステータスが好きに上昇させれる、ということです』


『まじかよ……それって……友達が多ければ多いほど、強くなれるってこと?』


『まぁ、概ねそういうことになりますね。ただし、どんな人物でもクラスに加入できるというわけではありません。あなたのことを一定以上信頼している人物しかクラスには加入させれません』


『なるほど……そっか……そっか!わかった!じゃあ!まずは友達にクラスに入ってもらうことだな!』


 オレはベッドから飛び降りて立ち上がった。ワクワクした気持ちで部屋から出ようとドアに近づく。


『……あれ?オレって友達いたっけ?』


 よくよく考えると、うみおねぇちゃんがダンジョンに囚われてから、戦いの修行をしていた記憶しかない。つまり、友達なんていないのだ。


『あ……このスキル……ダメだ……』


 オレは、しょぼくれた顔で、地面に両手をついたのだった。

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