野薔薇姫 山の章 三(前編)
その異物が遠目にも幼女と察せられたのは、黒々としたおかっぱ頭とつんつるてんの和服のバランスが、六頭身そこそこに見えたからだ。年の頃なら五、六歳だろうか。
俺は生活能力に反比例して視力がいい。だからその子供が普通に地べたに立っていればもっと早く見つけたはずなのだが、天井と地べたの中間あたりで野薔薇の壁に張りついていたものだから、なかなか視認できなかったのである。おまけに今はっきりと見えてきた
しかしさらに脚を速めて近づくと、なんのことはない、単に幼女は古びた木製の
これはもしや、ここまでの経緯そのものが、俺の茹だった脳味噌による白日夢だったのではないか。裕福な園芸農家の敷地にでも迷いこみ、堂々巡りしていただけではないのか。そろそろ夕方が近いらしく、
俺は脚立の数メートル手前から、幼女に声をかけた。
「やあ、こんにちは」
しかし
さらに脚立に近寄ると、刈込鋏の刃先を仰いでいる幼女の表情が見てとれた。柔らかそうな白い頬に自前の
脚立は大した高さではなく、
俺は脚立の横に立ち、なるべく脅かさないように軽い調子で挨拶した。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
「ごめんね、いきなりで脅かしちゃったかな」
このあたりの田舎の子供は見知らぬ
「えーと、おじさんね、ちょっと道に迷っちゃったみたいなんだ」
猫撫で声でいう間にも、幼女は宙空を仰いだまま、びし、びし、びし、と二度三度収斂し、
「えーと、君のお家の人は――」
俺が言い終わらないうちに、
「うあああああああ!」
この世の終わりのような悲鳴をあげ、いきなり脚立の上からあっち側へ跳躍し、そのまま宙空を飛び去るのではないかと思うほど滞空時間を稼いだ後、見事な着地のキメもそこそこに、野薔薇道をとととととと逃げてゆく。
俺はさらに面食らいながら、その後を追いかけた。
「おーい」
けして無闇に追いつめる気はないが、あの剣幕で親でも呼ばれた日には、このご時世、いきなり警察に通報されかねない。
「ちょっと待ってよー」
せいぜい優しく声をかけながら、幼女を追って薔薇園を抜ける。
そこは
幼女は物干し
「あうっ」
あのイキオイでは、顔面から縁側を直撃したのではないか。
「だ、大丈――」
夫? と訊ねかけて、俺は立ちすくんだ。
縁側に半身をあずけて
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