アビスブラック・テンタクルース
冬槻 霞
プロローグ
旅路の果て
深海で呼吸しているみたいだと思った。
窓の外には、どこまでも深い青空が広がっている。水面みたいだった。だからわたしたちのいるこの場所は深海だった。わたしとソノアの、二人だけの楽園だったのだ。
白砂のようなベッドの上に、わたしとソノアがいる。時間が緩やかに流れていた。
夢を見ているようなわたしの、その頬に、ソノアが優しく触れた。
「ねえ、ミウナ―――」
彼女がくれる言葉は、雪解け水のように優しさが溶け込んでいて、透き通っていた。
わたしもそうだった。心を凍てつかせていた『過去』は、もう溶けて消えてしまった。その雪解け水が、新しい幸せの芽を育てようとしていた。
未来なんて美しい言葉だって、ソノアがくれたから信じられるようになったのだ。
目元に残った涙を拭うことも忘れて、わたしは言う。
「ねえソノア。わたし、いつか―――」
一緒に生きたかった。ソノアが居てくれるだけで、わたしは幸せだったのだ。
窓の外が明るくなってきた。
だからわたしはもう、この部屋を出なければいけない。
―――それが生きることだと、ソノアが教えてくれたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます