第3話 オタク、魔道具コーチングを受ける。

「あ、そうだ。ちょうどいいから、魔道具の説明から入りましょうか。その方が自然な流れで説明できるわ」


「ほいー、うーんなんかここが当たるなぁ……」


 気の抜けた返事で、早くもソファーへ寝転がり始める優等生ちゃん。


 白髪がサラサラと揺れ、制服が乱れるのも構わず、寝心地のいい姿勢をモゾモゾと動きながら探り出す。


魔道具アイテムには大まかに、二種類あるわ。使い手が魔力マギアを借りるために使う、依代ダミーとなる物。もう一つが、使い手が魔力マギアを与えることで発動する、機械的メカニカルなもの。後者は魔装具イクイップメントとも呼ばれるわね」


「へー」


 賢者セージが右手を掲げると、パネルのようなものがもう一つ現れる。


 そこへ、賢者セージ魔道具アイテムの図説を描く。


「って言うかさ、賢者さん」


「何かしら」


「もしかしてだけど、さっきから魔法を詠唱無しで使ってる?」


「ええ。と言うより、あんなのを今でもやっている魔導師マジスターは、時代遅れよ。自動詠唱オート魔道具アイテム設定セットさせておけば、魔力マギアを注ぐだけで、勝手にやってくれるでしょう?」


「何それすごい」


「私は魔装具イクイップメント腕輪リングを七つつけているけれど。それぞれに千を超える自動詠唱オート設定セットしているわ。だから、もう大抵の魔法は使う魔力マギアの種類をコントールするだけで、即時ASAPで使えるわね」

魔装具イクイップメントショップが発展した現代のイヴェリアこの世界においては、常識だけど……まあ、転生者あなたは知らないわよね」


「うん。へー、そうなんだ、って感じ」


 優等生ちゃんはソファの上で足をバタバタさせつつ、相槌を打つ。


「てか、おもろー。楽でいいね」


「あなたは魔力マギアをコントールする力がまだ備わっていないから、この腕輪リングはおそらく使いこなせないでしょうけれど。いずれ、使いこなせるようになるといいわね」


「ああ……なんか、あれを思い出すな。『数の悪魔』」


「なぁに? それ」


 賢者は帽子を直しつつ、聞き返す。


「悪魔が人間界にやってきて、数学が出来なくて悩んでる冴えないショタに、数学を教えてくれるんだよ」


 ソファーの上で、大仰に身振り手振りをする白髪。


「ただ、教え方が奇抜でさ。うさぎをめちゃくちゃに召喚してきたり、他にも色々悪魔みたいなことしてくるんだけど……ふふ、思い出したら笑っちゃうな」


「そうなのね……」


「面白い本だったなぁ。アレ」


※読者向け参考用リンク(ブックライブのレビューに飛びます):https://booklive.jp/review/list/title_id/1157446/vol_no/001


「確かに、体験した方がわかりやすいものね。なら、そうねぇ……」


 するりと賢者が前へ手をかざす。


「いや、僕は普通に、論理的に説明された方が理解出来……。ああ、即時詠唱だ、コレ……」


 ピョコン、と。


 一匹のうさぎのような生物が現れる。


 薄い緑色の毛並み以外は、見た目はほとんどうさぎだ。


「これは、ヤンヤーガよ。種族はアイミナ属」


「こんにちは、ヤンヤーガさん」


 優等生ちゃんがそろそろとソファーから降りてきて、ヤンヤーガを撫で始める。


 ヤンヤーガはフンフンと鼻を鳴らし、目を細める。


「なんか、うさぎと言うよりは猫っぽいかも……?」


「そうかもしれないわね。おそらくあなたの世界で言うところのうさぎの見た目をした、精神性は猫の生物バイオと思った方がいいかしらね。外界そと知識ナレッジには疎いから、あっているか分からないけれど」


「合ってると思う。多分」


「ヤンヤーガは、主に私たちクリンド属や、あなたのようなミリー属の食料ファームとなるわね」


「く、食えんの?」


「ええ、美味しいわよ。種族については、後で詳しく説明するけど……」


 言いつつ、賢者セージが図説を追加していく。


 知力<インテリ>に長けたクリンド属。

 精神性<メンタル>に長けたミリー属。

 攻撃性<ファイト>に長けたメレイア属。

 生存<イデア>に長けたアイミナ属。


「この四種族は、基本的な種族だと思っていいわ」


「ほえー」


 ヤンヤーガを撫で続ける優等生ちゃん。


「あとの何種類かは例外だから、必要になったら、その時詳しく説明するわ」


「はーい」


 優等生ちゃんは、ヤンヤーガの毛のフサフサさ加減に、若干の気を取られつつも、返事を返す。


魔道具アイテムの説明に戻るけど……生物も、魔道具アイテムとして使用できるわ」


「なるほど、ペットか」


 ヤンヤーガが耳をピク、と震わせ、それを見た優等生ちゃんが「おお、反応した(笑)」と呟く。


魔道具アイテムとして依代ダミーにできるのはこの4種族の中でも、アイミナ属、クリンド属だけ」


「なぜ」


 ヤンヤーガからようやく手を離し、賢者セージの方を向く。


「ミリー族の使役は、特定の魔力マギア拒否反応リジェクションを示す場合があって、危険だわ」


 そう言われて「あぁ……」と若干、苦笑いをする優等生ちゃん。


 その隙に、ヤンヤーガが優等生ちゃんのリボンを、てしてし、と殴る。


「メンヘラだからか……確かに、言うこと聞かない時のメンヘラは、何をするか分からないから、厄介だもんな。わかるよ……」


 優等生ちゃんは制服のリボンをつい、つい、と引っ張り、直す。


 それを見て悲しかったのか、「キュウ……」と鳴き声を出すヤンヤーガ。


「メレイア族は、戦闘ファイトは得意だけれど、逆に言えば戦闘ファイトしか取り柄がないから、よっぽどの緊急事態EMでない限り、依代ダミーとして使うことは無いわ」


「ふーん」


 再びヤンヤーガを撫で始める優等生ちゃん。


「つまり、そいつらは非効率なんだね」


「ええ。アイミナ属を使うことが多いのは、彼らは小さい子や、すばしっこいものが多いから」


「キュイィ……」


 言葉に反応したのか、それとも撫でられて気持ちよくなったのか、目を細め、鳴き声をあげるヤンヤーガ。


「……あ、そういうこと!?」


 急にテンションが上がり始める、コスオタ。


 理解出来ることが楽しいのだろう。

 オタクは知的好奇心の塊である。

 知識ナレッジは何よりの好物だ。


「生存が得意って、何も長寿だけじゃないのか……」


「そうよ」


 ふふ、と金髪碧眼の賢者セージが微笑む。

 服の袖をまくり、ジャラリ、と腕輪リングを鳴らしつつ、優等生ちゃんへ見せる。


「それから、クリンド属の魔物マグルは、複雑な術式コンプレクス・スペルを手伝わせる時に使役するわ。この腕輪リングも、クリンド属の使役が必要ね」

「ただしクリンド属は、使役する側にもそれなりの根気パワーがいる場合が多いけれどね」


「へー。色々あるねぇ」


「さてと……ここまではいいかしら? 質問はある?」


「大丈夫! たぶん」


「素直でいい子ね、さすが、"優等生ちゃん"と名乗るだけはあるわ」


「えへへー」


 ヤンヤーガを抱え、ニコニコと笑う優等生ちゃん。


「次は、いよいよ魔法の基礎、マテリアルと属性について教えるわね」


 賢者セージ三角帽ハットの縁を撫でつつ、嬉しそうに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メンヘラオタク「やったあ異世界転生だあ!僕、魔王になります!ウオオ!」 筆屋富初/Hituya Huhatu @you10say

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ