第2話 キモオタ、コーチング依頼する。

「ところで、僕をこの世界に転生させた神様は何してるの?」

「休暇とってバカンス行ってる?」


『神様は休暇とってバカンス行ってる』とは、よく漫画や洋画で使われるフレーズだ。


「えーっと、聞かれなかったら答えないで済んだのだけど……仕方ないわね」


 賢者はすこし言いにくそうにする。


「女神様は今、そのぉ……婚活パーティに」


 それを聞き、目を丸くする優等生ちゃん。


「なんでちょっとリアルなの? 嫌だよ。女神の婚活事情とか聞きたくない」


 うー、と耳を塞いで、眉間に皺を寄せる白髪のオタク。


 賢者もバツが悪そうに続ける。


「だから、まあ、この世界に関しては私が教えるのが適任でしょう?」

「こう見えて、賢者の中ではトップクラスに優秀なのよ、私」


 そう言って、胸元の紋章に指を指す。


 紋章に刻まれた燕のマークの周囲には、何かよくわからない模様が細かく刻まれている。


「へぇー。でも、実は方向音痴だったりとかしそう」


「なんでわかるのよ!?」


 驚いた顔で優等生ちゃんの方を見るマリアンナ。


「え? だってオタクだし……ありがちな設定じゃん」


 白髪の端っこをクルクルと指で回しながら、優等生ちゃんが欠伸をする。


 オタクにとっては当たり前の『ギャップ萌え』だ。


「……まさか、あっちの世界でもそういう風に考えてたりしたの?」


「うん? うん。顔がいい男はだいたいそれを上回る欠点があって、人柄がいい男はだいたい周りに意味わからんメンヘラ女が群がってて……」


「オタクって言うか、思想が強い陰キャのテンプレみたいな考え方だねぇ……」

「でも、体系的な把握の仕方はできるってことかしら……」

「だとしたら、魔法の解説は私でも出来るかも? 本当は大魔女の娘の、メリディア様にお頼みしようと思っていたのだけど」


「その人も呼べるなら、呼んで欲しい🦆。うん。いた方がいいな、二人で教えてよ。僕、コーチは多い方がいい」

「だって、僕、頭悪いからいっぱい質問するし、二倍説明された方が理解も深いし。てか多分、コーチが疲れちゃうし……」


「そうなの? だったら、通信魔法を使うわ……」


「メリディア様、きこえる?」


『……、……』


「あら? そうなの? だったら話が早いわ。さすが、全部お見通しなのね」


『……、…………、…………』


「ええ、ええ。ありがとう。それじゃ」


「来てくれるそうよ、私たちの会話、そこの魔道具を通して聞かれていたみたい」


「魔道具!? 初めて見ました!オタク大歓喜です! ウオオ!」


「うわ、オタクきっしょ……」


「何か? 賢者様」


「いえ……」

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