メンヘラオタク「やったあ異世界転生だあ!僕、魔王になります!ウオオ!」

筆屋富初/Hituya Huhatu

第1話 おい、勇者しろよ

「ふーん。あなたが"転生者新入り"ね。あたしは"宗道のセクトズ賢者セージ"マリアンナ・ソリディエ。あなたはなんて名前なの?」


 ふわりとした声で、綺麗な金色の髪と蒼き瞳を揺らしながら、賢者セージマリアンナは三角帽子ピークドハッツを整えつつ尋ねる。


 その服には緑の刺繍が所狭しと仕立てられており、彼女がいかに高貴で、かつユーモラスな人間であるかを表していた。


 対して、転生者と言えば。


「はい! "優等生ちゃんオーナー・スチューデント"です! "魔王デーモン・キング"志望です! ウオオ!」

「世界征服するぞ! 世界征服するぞ! 世界征服するぞ!ウオオ!」


 まるで老婆のような白銀の短髪ショートに、赤いんだか黒いんだか分からない瞳(いい加減設定をどっちかに統一しろよ、と我ながら思っている)。


 服装はと言うと、シンプルな半袖のセーラー服で、なんの面白みもない紺の襟、シンプルにデカイ赤のリボン、一切模様の入っていない紺のミニスカート。


 靴は茶色で、見ただけで学校指定のローファーとわかる革靴。


 靴下はきっちり太ももまであって、絶対領域を維持。


 どう見ても安っぽいコスプレ服の、まるで虚実フィクションのような、どこもかしこも作りものの、嘘みたいな少女メンヘラだ。


「……勇者には?」


 賢者セージは既に脳内で叫び出したい気持ちになりつつも、ちょっとそろそろどこか遠くへ行ってバカンス行きたい気持ちに駆られつつも、仕方なく"転生者新入り"へのチュートリアルを続ける。


 が。


「なりません! この世界を破壊しますブレイク・オール!」

さようならオ・ルボワール! ウオオ!」


「……ちょっと落ち着きましょうか。深呼吸して?」


 ため息をつきそうになって、それでは幸せが逃げると思い直し(ため息をつくと幸せが逃げるとは、マリアンナのお師匠様の言葉であった)、転生者をなだめる。


「スーハースーハークンカクンカ、いいっ匂いっだなあっ!!」


「違う、そうじゃない」


 オタク語録を存分に発揮して異世界をとことん楽しんでやろう、という気持ちの転生者には、そんな賢者の事情などはつゆほども知らないのである。


 しかもこの転生者、元から自分のことを『転生者』だと思い込んで、七年もインターネットで暮らしていたし、何なら人間界を、というか、全ての存在を『仮想フィクションである』と深層心理から思い込んでいた。


 どういうことかって?


 自分を『優等生ちゃん』という"架空存在フィクション"だと思い込み、インターネットでRPロールプレイを続けて、精神にそれが及んだってことです。


 ちなみにだけど、終わってはいる。


 うん、そう、だから……今更、異世界に飛ばされようが、彼女(彼?)にとってはボーナスステージ程度にしか思えず、『魔王デストロイヤーになりたい!』と思うのも、まあ、無理はないのであった。


 だって、そっちのが楽しそうだし。


 人生を、ゲームか何かだと。本気で思っている。


 "ゲーム脳シミュレーテッド・リアリティ"、それが彼女の病であり、厄介なところだった。


「コホン、とりあえず。ようこそウィンドの都、フォアグラへ」


 ブォン。


 2人の間にスクリーンのようなパネルのようなものが出現し、フォアグラの"なんかすごい風っぽい感じの都"の風景が映る。


「転生者のあなたには、これから魔王を倒しに行って……くれるのかなぁ? これ」


 早くも自信を喪失しつつある金髪碧眼の指南役は、それでも一旦、気を持ち直し。


「まあいいや、とりあえずそのためには、戦闘訓練修行をしなくちゃいけません」

「ここまではいい? 優等生ちゃんさん」


「優等生ちゃんでいいっすよ。え、てか僕、戦いたくなーい」


「ええ……(困惑)」


 しかして、当然だ。


 いくら異世界とはいえ、ずっと文字ばかり書いていた引きこもりのクソニートが、いきなり戦えるわけはない。


 良くてヒーラーがせいぜいだろう。


「おうちでゴロゴロしたいから、魔王志望したのに。なぜ戦わなきゃいけない?」


「勇者は普通、魔王と戦うものでしょう……」


 えー、という顔をして、コスプレメンヘラオタクはゴネ始める。


「むしろ、魔力貯めて魔族のコネ繋いでもらって、魔王に『世襲せしゅうさせてください』ってお願いしに行こうぜ。そうだよ、それがいい」

「僕が魔王になったら、なんかいい感じにみんな毎日遊んで暮らせるようにするからさ〜、んね?」


 全く可愛げのない、というか人をイラつかせるような上目遣いで優等生はお願いする。


 それに対し、マリアンナは呆れつつ。


「いいから話を聞きなさい、クソメンヘラ陰キャニート引きこもりオタク君」


「ハイッ!」


 優等生ちゃんは、ビシッとご丁寧に敬礼。


「返事だけはいいわね」


 眉を下げる賢者。


「それだけが取り柄、挨拶は大事。ショッギョムッジョ」


 優等生ちゃんのオタク語録を無視して、壮麗そうれいなる賢者は手元の簡易メモを参照しつつ、続ける。


「確かに、データを見るに……メンヘラ度は高いから、魔力を高めるには案外向いてそうねぇ……というか、少なくともこのステじゃ、ファイターにはなれないわよねえ」


 〇優等生ちゃん


 HP 10/10

 MP 18/18

 メンタル 25/99

 筋力 5

 生命力 9

 感受性 18

 かわいさ 10

 速さ 4

 体格 16

 機転 11

 教育 15


※能力値は10〜13が平均


L〇Lろ、るではsupサポート、ピックはジャ=ナ風の精霊〇TP一択でした。ジャン×精霊以外使いたくない」


「なるほどね……キモオタらしい執着っぷりね。それなら魔法の習得も案外ハマるかしら……?」

「あと……なんで最初からメンタルこんなに下がってるのよ、死ぬ時よっぽどの事でもあったの?」


「思い出したくない」


「そう、ごめんね」


「いいよ。って言うか、戦うとしても、前線に出て行くと言うよりはどっちかって言うと遠距離からチクチク殴って嫌がらせして、突っ込んできたらバリアとか行動妨害で逃げるっていう感じの方が僕は好き」


「さすが粘着系クソメンヘラ、やっぱオタクってクソ……」


「何か言いました? 賢者様」


「いーえ?」


「ならよし」


「じゃあまず、魔法の基礎から教えていくわね……」


「ハイッ!賢者様ありがとう!マリィママのおっパイちゅっちゅ!!」


「うわキモ……はぁ、大丈夫かなあ」

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