18.

脳裏に今にも消えそうな声で呼ぶ弟と、悲しそうな顔をするジルヴァが浮かんだ。


匡だとまた話が拗れるからと自ら買って出た。

元々悪く思われている自分に向ければ、そこまで拗れずに済むと思ったから。

奴にまた会わなければ、奴が祥也のことを慕ってなければこんな風にきっと思わなかった。

自分だけならば、今頃すぐに逃げ出していた。

けど、今は。


違う方向へ向けていた足先をまだ何か言っている母親に向けた。


「⋯⋯あなたは、匡の言っていることをきちんと聞いたことがあるんですか」

「⋯⋯なに?」


鬼の形相を向けてくる。

一瞬怯んだが、手を握りしめ、己を奮い立たせた。


「⋯⋯じ、自分の理想を押しつけているから、匡は、嫌になって出て行ったんじゃないんですか」

「アンタに何が分かるのよッ!」


パンッと、乾いた音が響いた。

痛みが落ち着いていた頬にまた痛みが加わり、顔を歪めた祥也であったが、それでも真っ直ぐ見た。


「俺は、あんな弟がいるのが嫌だった。俺ばかり褒めていたクセに、あいつが産まれてからは、今みたいに殴られることばかりだった。⋯⋯けど、偶然にも会ったあいつが俺のことを悪く思っていなかったから、あいつのためにただ一方的にしか話せない相手と話しているんだ」

「アンタが出来が悪いせいでしょ⋯⋯っ!」

「出来がいい匡でも、自分から離れていったのは何なんだ」

「⋯⋯っ、悪いことを教えたんでしょ!」

「何もかも、俺のせいにするなっ」


カッと頭に血が上った感覚がした直後、自分でも驚くような怒声を上げた。

自分が発したとは思えないその言葉を言った後、一瞬何があったのかと、呆然としていた。

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