17.
「⋯⋯本当に、らしくもないことをする」
その手をどけると、まだ抗議したそうな顔をする弟に、「ジルヴァのことを頼む」と同じように戸惑いを見せるジルヴァを託す。
「⋯⋯しょーやさま」
今にも消えそうな声で呼ぶ子狼に踏み出した足が止まったが、それでも後ろを振り返らず、ドアノブを握った。
奴にカッコつけたようなことを言ってみせたが、実をいうと、立ち向かえるような策は何にも考えていなかった。
しかし、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。
頭が痛くなってくるのを堪えつつ、震えていた手でドアノブを回した。
「⋯⋯っ」
悲鳴のような声を上げそうになった。
廊下を出てすぐに母親がいたのだ。
家に入ってどこに行ったのか分からない相手を捜す手間は省けたが、全然心の準備ができてない祥也にとっては最悪のタイミングだった。
「連れてきて匡は満足したって?」
「⋯⋯っ⋯⋯ぁ⋯⋯」
「どうなのよ。なんだか言いなさいよ」
「⋯⋯」
喉に何かが突っかえたかのように何も言えなくなってしまった。
昔からどうしてこんなにも攻撃的で、急かすような言い方しかできないのだろうか。
匡よりも出来が悪いとはいえ、仮にも自分が産んだ実の子であるのに、あまりにも酷い。
祥也が何も言えなくなったことが火をつけるきっかけとなってしまったようで、先ほどのように祥也の尊厳をへし折るような罵る言葉を捲し立てた。
その聞きたくもない雑音を目の前で聞いているうちに、胃から酸っぱいものが込み上げていくのを感じた。
この感覚も不愉快だ。その逆流していく胃酸を落ち着かせるためにも今すぐにこの場から逃げ出したくなった祥也は、力が抜けかかっている足に無理やりにでも力を入れた。
──⋯⋯兄貴。
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