12.

「⋯⋯そうか」


安堵といっていいものなのか。それに似た感情を乗せた声音で頭を撫でた。

立ち止まっていた足を祥也が歩いたことによって、ジルヴァもそれに倣って歩き出した。

それからはどちらとも話をせず、ただ歩いていたが、ジルヴァに関しては自分の影を追いかけたり、その辺に転がっている石ころを蹴ってみたり、飛んでいる虫を目で追っていたりと忙しなかったが。


祥也が思っていたよりもジルヴァは、親に対してそこまでの執着がないようだ。

祥也よりも一緒にいた時間が短いからなのだろうか。

よく分からないと思えるのが羨ましい。

いっそのことそうと思える関係性が良かった。そうであれば、未だに悪夢を見ることもなく、あの声を忘れ、自分の存在ごと否定され、自信がなくなることはなかっただろうに。



「──こんなところにいた」


身体が硬直した。

落ち着いてきた息が、心臓が速くなっていく。

全神経までもが激しく警鐘を鳴らしていることが今は分かってしまう。

それよりもなんで。なんでここにいるのか。

急に家に訪れた時のようにその疑問が浮上するが、やはり喉が詰まったように言えず、不思議そうな顔をして見上げてくるジルヴァに顔を向けたままだった。


「すぐに家に帰らず、どこかにほっつき歩くのは変わらないのね。で、その子どもは何? あの時にもいたわよね? もしかして、甲斐性なしに相手なんかいるの? アンタが?」

「違う⋯⋯これは⋯⋯」

「なんだっていいわ。匡が用があるのよ」


吐きそうになるのを堪え、ようやく言葉が出たがどうでもいいという言われ方をされ傷ついたが、今はそれよりも。


匡が、俺に用?

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