11.

「ジルヴァ。お前の親はどうなんだ」


他人事のように言う子狼のことが気になって、その疑問を口にする。

すると、うーんと唸りながら首がもげそうなほど頭を傾けた。


何なんだろうか、この反応は。


「あたたかいぬくもりと⋯⋯ぼくをおいてどこかにいったことしか⋯⋯」


思い出しながら言っているようなジルヴァの言葉に、えっと小さく声が漏れていた。


急に置いていったということか。

恐らく、今よりも幼いジルヴァを。

だから、一人で"優しい"と思った人の元で生きようと、だが、結果的には優しくしてもらえず、片目を盗られたり、挙げ句、元の毛色が分からないぐらいにあのような場所で死に待つような状態になっていたのか。


あの時、偶然にも見かけなければ、今頃ジルヴァは──。


ぞわっと鳥肌が立ち、心臓が早鐘を打つ。

今繋いでいるこの手を離してしまっても、この小さな命は呆気なく散ってしまう。

そう思うと、恐ろしく思え、同時に離さまいと強く、しかし、ジルヴァが痛まない程度に握り直した。


「しょーやさま?」


不思議そうにつぶらな瞳が見上げてくるが、祥也の耳には届かなかった。

それこそ、訊いてはならないことを訊いてしまっただろうか。

それにしても、ジルヴァの母親はどこに。

ゆっくりと落ち着かせるように深呼吸をした後、喉を鳴らした祥也は口を開いた。


「⋯⋯母親に会いたいか?」


もっと訊いてはならないことを訊いてしまった。

酷なことだと分かっている。だが、訊かずにはいられなかった。


「⋯⋯よくわかりません」


ところが、祥也が思うのとは裏腹に、ジルヴァは何を言っているのか分からないといったように返した。

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