10.

しっぽをぶんぶん振って、嬉しがっているジルヴァが可愛らしく、そのまま頭を撫でていると不意に顔を上げた。

どうしたのか、と思わず撫でていた手を離した。


「あのとききていたおんなのひとはだれですか?」


何の脈絡もなく言われた何気ない疑問に、祥也は顔を強ばらせる。

あの場の雰囲気に、特に祥也の反応から何か良くないことを感じ取ったかと思い、そのようなことを訊かれないと思ったのが迂闊だったのか、それとも深く考えず、ただ気になったから訊いたのか、どちらにせよ、どんな時でも祥也にとっては不愉快極まりない疑問だった。

けれども、誤魔化すのも後味が悪い。

だから、祥也は重たい口を開いた。


「⋯⋯あれは、俺と匡の母親だ。⋯⋯一応」

「まさしさまだけかえったのは?」

「それは⋯⋯」


やはり、そこも気になるのか。

逆に笑えると苦笑いのような顔をした。


「それは、俺のことはどうでもいいから」


そう言った途端、聞きたくもない金切り声が頭に響き、同時に耳鳴りもした。

何故、あんなにも自分のことを毛嫌いするのか。それは、弟と比べて出来が悪いからなのだろうが、弟が産まれる前はそんなところも気にはしなかったクセに。

比べる対象があるとどうしても手のかからない、良い方を選ぶ。

本当に嫌な比べ方だ。


「おかーさんって、そういうのですか?」

「俺にもよく分からないが、少なくともここまで酷いのはいない⋯⋯と思う」


人と関わったことがない祥也にはそれが分からず、比べる対象がないため、世間の親の普通は何なのかはっきりと言えなかった。

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