8.

一方的に気まずく思えた祥也は、しかし、何か話題があるわけもなく、ただ突っ立っていることしかできなく、組んだ手を組み直したりと落ち着かなさそうにしていた時だった。


「ジルヴァ君がどこか元気なさそうでしたが、どこか具合が悪いんですかね?」


組み直していた手が止まる。

いくら祥也がなんでもないとか適当にはぐらかそうにも、ジルヴァが素直な気持ちを表に出してしまう。

なんていえば。


「あ⋯⋯っ⋯⋯と」


こんな時に限って言葉が詰まってしまう。

何か、何かを言わないと。

そう思えば思うほど焦りが募る。


「熱中症ですか?」

「⋯⋯っ、は、はい⋯⋯」

「ああ、そうなのですか。毎日うだるぐらい暑いですから、特に犬のジルヴァ君には堪えるものがありますでしょう」

「ええ、まあ⋯⋯」

「いつもみたいに元気な姿を見られないのは残念ですが、まめに水分を摂ってあげたり、十分な睡眠を取ってあげてくださいね」

「はい、そうします」


絞り出すような震えているような声をしていたが、誤魔化しきれただろうか。

思わずため息を吐きそうになるのを堪えた祥也は、代わりに心の中で小さく息を吐いた。

バイトしている時よりもどっと疲れた。


それから今度はそこそこにレジが混んできたことで、話す時間もなくあっという間にバイトが終わる時間になっていたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る