6.
怪我が完治してきた頃、仕事に復帰した。
自分的にはこのぐらい傷であれば仕事した方がいいと思っているが、ジルヴァは「もーすこし、やすんだほうが!」とそれはとても心配してくる。
心配してくれているのは嬉しくはあるが、それは仕事でもしてないと気が紛れないからそうしたいというのもある。
「──何かありましたか?」
世間は夏季休暇であるからか、いつもよりも人の出入りが多いのをどうにかこうにかこなし、少し間が空いた時、隣のレジにいたオーナーが訊いてくる。
匡が家に上がり込んできて、その振る舞いに苛立った時と同じように優しい口調で声を掛けてきた。
あの時は八つ当たりするような言い方をしてしまって、本当に申し訳なく思った。オーナーには数え切れないほどの恩があるのに。
今はそう思う余裕があるが、今度は別問題で落ち込んでいるといった表現が合っているのか、オーナーにすがりたくなる。
だが、所詮赤の他人である相手に人の家の事情なんて話して良いものだろうか。こんなこと言っても迷惑ではないだろうか。
「⋯⋯オーナー、今さらですが、あの時は八つ当たりするような言い方をしてしまって、すみません」
「あの時⋯⋯?」
何のことかと思案を巡らせているオーナーに、「匡⋯⋯弟のことで苛立ってしまって、今みたいに気にかけてくれたっていうのに、俺感じ悪く言ってしまって⋯⋯」とぽつぽつと言うと、「あ、ああ、あのことですか」と一応納得したような声を上げた。
「歳のせいでもありますが、ほんのささいなことですから、言われるまで忘れていましたよ。ですから、気にすることではありません」
「はい⋯⋯」
「しかし、仕事中まで思い出してしまうほどの兄弟喧嘩をしたのですね。若くていいですね。私はそのぐらいの元気はもうありません」
ほほ、と冗談混じりに軽く笑っていた。
と、そこで数人並んだのを気に話題が途切れてしまった。
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