5.

『どうしてアンタはこれぐらいのことができないのっ!』


聞きたくもない金切り声と共に頬に鋭い痛みが走った。


「──⋯⋯っ!」


息が詰まったような声とも呼べない声を発した祥也は飛び起きた。

しばらく今まで見ていた光景は夢だと思わなく、叩かれた箇所を手で押さえながらも乱れた息を整えていた。

びっくりするほどびっしょりとかいた汗が不快だと思った時、そこでようやく今まで見ていたのが夢だと確信した。


「⋯⋯うなされていましたが、だいじょーぶですか⋯⋯?」


不意に子供特有の高い声に掛けられて、その声の方へ顔を向けた。

ジルヴァが泣きそうな顔をしてこちらを見つめてくる。

起こしてしまったか。でも、無理もない。ジルヴァのことを抱きしめながら眠るのだから。それに今日は一段とそれがしたくてたまらなかった。


ジルヴァ、大丈夫。大丈夫だ。


目に涙を浮かべる子狼を安心させるために抱きしめた。


俺のせいでそんな顔をさせてしまっている。けと、俺は大丈夫だから、泣くな。


その心の内を表すように強く、だが、優しく包み込む。


大丈夫。大丈夫⋯⋯。

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