4.
「⋯⋯おれ、帰ることになったから」
少しずつ息を吸えるようになってきた祥也達のそばに来ていた匡が、耳打ちするような声量で言ってきた。
よろよろと顔を上げた時は、スポーツバッグを下げ、母親の元へ行く匡の後ろ姿が映し出された。
勝手に上がり込んできて、人のやることを口に出してくるし、迷惑だと思っていたからこれで良かったのだ。
これからはジルヴァと静かに暮らせる。
これで、良かったのだ。
これで⋯⋯。
「事件性がないようなので、これで失礼します」
事務的なことを言って、こちらに一礼をした警察官も部屋から去っていった。
閉じられた扉。ついさっきまでの喧騒は嘘のように静まり返っていた。
さっきまで聞こえなかった自身の整えようとする呼吸が、やけに大きく聞こえる。
もう自分の目の前には、脅かす存在はいない。
だから、いつまでもこんな情けない姿を幼い子に見せるわけにはいかない。
そう己に言い聞かせるが、一向に安定しない。
抱きしめる腕も笑ってしまうほどに震えている。
顔を見ずとも、きっと不安げな顔をして見ていることだろう。
なんて、本当に情けないんだ。
「⋯⋯どうして、俺ばかり⋯⋯」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます