3.

「いいから、バイトだが部活だが行ってこい」


蹴る勢いで追い出そうとした、その時。

チャイムが鳴った。

何かを配達で頼んだ覚えも、ましてやわざわざ尋ねてくるほどの親しい間柄の人間はいない。

あいつならそれらが当てはまりそうだと睨んでいると、その気迫と玄関から近くにいたのもあって奴が出た。


アパートのために部屋はそこまで広くない。

だから、開けた時来た相手が分かった。分かってしまった。

それは絶望で固まってしまうぐらいに。


「母さん、なんでここに⋯⋯?」


母さん。

それは匡と共通の親でもあり、そして、この世で最も恐れている人物。

祥也も思った疑問を匡が代わりのように訊いた。


「なんでもかんでもないでしょ! 何日も帰ってこないのだから!」


大げさに騒ぐ母親の声にビクつき、それから段々と呼吸が浅くなっていく。

数日前から匡が帰ってこないのを心配し、捜していたら辿り着いたのだという。

だから、警察官を伴っていたのか。


「だから! おれは家出したんだ! クソババア、人の話を聞けよ!」

「その口の聞き方は何?! あんなのと一緒にいるから悪い影響が出たのね。ほら、こんなオンボロアパートにいないで早く帰りましょうね」

「だから、おれは帰らないって言ってんだろっ!」


玄関先で言い合う親子の姿を息をするのもやっとである祥也は、ただ見ていることしかできなかった。


「しょーやさま、だいじょーぶですか⋯⋯?」


腕の中にその声が聞こえてきた時、その存在がいたことに改めて感じ、大丈夫だと言葉代わりに、そのぬくもりを確かめるように弱々しく抱きしめた。

そんなことしかできない間に警察官が二人の間に介入したようで、いつの間にか耳障りな言い合いが聞こえなくなった。

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