第7話 Key

「四ノ宮さん、水がもう…」


「分かってる。落ち着くんだ美豆倶胝!確か、ビルの入り口付近だったと思ったが・・・」


四ノ宮は何かを探すように辺りを見回しながら移動する。

それに倣うように、美豆倶胝は子供たちを連れついていく。


「んん?・・・あった!」


四ノ宮が弾む声を出した。


「四ノ宮さん、何があったんですか?さっきから水の量が増えて来てます!早く何とかしないと!」


四ノ宮はまた3メートルほど移動をした。

今度は、子供たちを四ノ宮が引き取る。

そしてあるドアの前に立った。


「美豆倶胝、ここに入るぞ!」


「ここ?ここは何の部屋ですか?」


「防災備蓄倉庫だ!」


「ぼうさい・・・、そ、そうか、震災に見舞われたときの物資がある部屋。そうだ、防災備蓄倉庫は物資を守るために強固に作られている。当然、津波にも対応している部屋だ!四ノ宮さん、助かりますね!」


四ノ宮が頷き、ポケットから何種類かのカギを取り出した。


「四ノ宮さん、そのカギは?」


「防災専用キーだ。防災に関する部屋のドアキーは、全国で何種類かで統一されている。我々防災のプロは常備している。」


「ええっ!僕は貰ってませんよ。」


「お前は半人前だ。持つにはまだ早い。」


四ノ宮は、防災備蓄倉庫を解錠し、四人はその部屋へと逃げ込んだ。

ドアを閉めた途端、外で物凄い水流の音が響いた。





「四ノ宮さん、外がやけに静かですね。」


四ノ宮、美豆倶胝、そして子供たちの四人は、防災備蓄倉庫に身を隠し、襲い来る津波から命からがら逃げることが出来た。

密封された部屋の中には、水一滴入っては来ない。

物資の殆どが飲食糧であるため、室内は換気が行き届いており、ビル内のダクトを通じて空気の入れ替えが行われる。

電源が切れても外気を取り入れられるようにビルの屋上には大きな換気口があった。

そこからビルの各階にダクトが通っている。

勿論、防災備蓄倉庫の換気扇からも外気が取り込める仕組みになっている為、酸欠になることはない。


「外の様子を見てみるか。・・・ドアが開けばいいが。」


四ノ宮は、仮に部屋の外が冠水していて、部屋自体が水の中になっていたとしても、ドアを開ける際、水が流入すれば自然とドアが閉まる方向に作用することを把握し、ドアノブに手をかけた。


「おや?」


ドアは、抵抗なく外に開いた。

と同時に、下水道の様な悪臭が鼻を突く。

津波の水は街のあらゆるものを巻き込み流れる。

当然、内容物には汚水も含んでいる。


「四ノ宮さん、これじゃぁ、地下から出られませんよ・・・」

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垂直避難 第2章…日本沈没 138億年から来た人間 @onmyoudou

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