第5話 波の壁

1983年の日本海中部地震、1993年の北海道南西沖地震では、奥尻島などで大型津波が観測され、被害も甚大だった。

今回の津波もすでに被害が露見しており、第2波3波と警戒を怠れない。

「四ノ宮さん彼処、船が転覆しています。」と美豆倶胝が指差すと四ノ宮がその方向にヘリを向ける。

漁船だと直ぐにわかった。

其れは船とは言えない共進丸と書かれた船体の残骸だった。


「乗組員の姿は見えないか?」


美豆倶胝は四ノ宮の問いかけに必死に周辺に目を凝らす。


「駄目です。どこにも見当たりません。」


二人が、途方に暮れていると、遠くの空から一機のヘリが現れた。

自衛隊の救助ヘリだった。

四ノ宮達は、自衛隊機と合同捜索し、漁船乗組員と思われる二人の男性遺体を発見した。

遺体は自衛隊機が近くの部隊へと運んだ。


海上で、自衛隊機と別れ本土へと向かう。


「至急至急、日本海で津波を観測。大津波と思われる。警戒に当たれ。」


ディフェンドⅡ専用無線にディフェンドから緊急無線が入ってきた。


「四ノ宮さん!」


美豆倶胝が上ずった声で、遠方を見つめ指をさす。

それは、矢島・経島の沖合から立ち上る水の壁だった。

それは徐々に高さを増している。

陸に向かってスピードを上げる波の壁。


「急ごう、巨大津波だ。」


四ノ宮たちは、海岸沿いまでヘリを戻し、周辺の様子を窺う。

海側から内陸に向かって人の波が押し寄せている。

逃げ惑う人々の姿を見て、四ノ宮はヘリを緊急着陸させることにした。

病院のヘリポートを見つけるが既に非難した人たちでヘリが下りるスペースはない。高台という高台に人が溢れ、助けを求めている。


「あそこに着陸するぞ!」


「えっ、あそこって、あの線路ですか?」


「そうだ、あそこなら、高架線路だし津波を回避できる。」


「で、でも、下が不安定な場所ですよ。」


「大丈夫だ。安心しろ!」


新潟駅の在来線前線高架化は、2022年に完了している。

利便性向上目的ではあったが、津波対策にも有効だった。

高架線路にもたくさんの人だかりがあるが、線路は長い。

スペースはたっぷりある。

四ノ宮が、コレクティブレバーを下げ、メインローターのピッチを下げた。

アンチトルクペダルを踏み、計器を確認しながら、コレクティブレバーを調整し安定着陸した。

息を飲んでいた美豆倶胝を他所に、四ノ宮は直ぐに機外に出て人命の救助に向かう。


「美豆倶胝、行くぞ!何してる!」


美豆倶胝は、放心状態からやっと正気を取り戻した。

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