第4話 ディフェンドⅢ離陸

その数秒後、引くだけ引いた潮の流れが堰を切ったダムの貯水のように浪の大きな音と共に戻って来た。

その波は引いた分と溜まっていた分を掛け合わせた水量を伴い一点を目指し襲う。

津波の高さ、25メートル。船もろとも二人は藻屑となり散った。


「四ノ宮!津波が発生したぞ!直ぐに新潟に飛んでくれ!」


「はい、分かりました。ディフェンドⅢで出発します。」


出勤早々、緊急事態となったディフェンドだが、南海トラフ大震災、首都直下型地震の経験値からスタッフに慌てるものはいない。

経験者は勿論のこと新人さえも研修を十二分に続けているせいか、物を落とすこともなく冷静沈着な行動力で対応していた。

四ノ宮の今日の業務は本来、地域コミュニティへのSNSの重要性に関して、北海道地域公民館での公開セッションであった。

Twitterなどのソーシャルメディアは過去の震災時、有効手段のツールとして使われている。

他にも地域SNSのようにより身近な住民からの情報は特に効果のあるコミュニケーションだ。

然しTwitter等個人からの情報の中にはデマという震災では人のパニックを煽るようなものもあり、高齢者などは使い慣れないネットに対して警戒感が強く、「ネットはデマばかりを流している」と感じている人が多い。

メディアで流されるデマの被害ニュースに一喜一憂してしまうのだ。

四ノ宮はこうした人々にSNSの重要性、伝達の速さ、分りやすさ、そして便利さを責任として説明する予定だった。

然し、今は其れを後回しにしなければならない。

「人間の命を救わねばならない」からだ。


「ディフェンドⅢ離陸。」


重い機体が手から離れた風船のように静かに陸を離れる。

特殊ヘリは、騒音防止機能を併せ持っている。

其れは高度が上がるまで、ハイブリッド機能により電力で発動するからだ。

世界にもない静音ヘリコプターディフェンドⅢ。操縦桿を握るのは四ノ宮瑞生。


「四ノ宮さん、津波は矢張り海底が原因ですか?」


相棒の美豆倶胝は、隣に座り前を見据えたまま四ノ宮に尋ねる。


「まだ、詳しい情報が入ってないんだ。新潟沖で漁船が津波に飲み込まれたということ以外は。」


四ノ宮も、海底火山の爆発だと睨んでいる。

然し、それ以外に原因がありプレートにズレが生じることも頭にはあった。

そして、この漁船以外にも津波被害が続出する。

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