第6話:秩序の裏に潜む闇☑

夕焼けの赤銅色の光が、黄金の平原サテライトの街並みを染め上げていた。その温かな色彩は、リリアの心の内に渦巻く複雑な感情とは対照的だった。彼女は重い足取りで、オルドサーヴィスの宿舎へと帰路を辿っていた。


宿舎は、サテライトの中心部から少し離れた高台に位置していた。その建物は、黄金の平原の特産である砂岩で装飾がなされており、夕日に照らされて輝いていた。しかし、その堂々とした外観とは裏腹に、内部には複雑な秘密が潜んでいるようだった。


リリアは宿舎のエントランスに入り、窓際に立った。そこからは、黄金の平原サテライト全体を見渡すことができた。遠くには、サテライトの名前の由来となった広大な黄金色の草原が広がり、近くには整然と並ぶ建物群が立ち並んでいた。しかし、彼女の目には、その美しい光景さえも虚ろに映った。


「ワイル先輩」リリアは、背後に控えていた先輩職員に声をかけた。「なぜ街の人たちは、私たちに向ける視線があんなに冷たかったのでしょうか?」


彼女の声は静かだったが、その中には深い戸惑いと悲しみが込められていた。ワイルは一瞬黙り込み、次いでリリアに近づいてきた。彼の顔には苦い表情が浮かび、やがて重い口を開いた。


「リリア、街の人々にとって、オルドサーヴィスは必ずしも清らかな街の守護者というわけではないんだ」ワイルの声は低く、言葉の一つ一つが深く心に響いた。「オルドサーヴィスは秩序行使業者であって、お金を払わない商人にはサービスを提供しないし、本当に困っている人々はお金を持っていないことが多い」


リリアはその言葉に耳を傾けながら、彼女自身の心の中で何かが少しずつ解けていくのを感じた。彼女の目の前で、オルドサーヴィスの真の姿が徐々に明らかになっていくようだった。


「それに」ワイルは続けた。「私たちの業務は警護や用心棒といったビジネスだが、オルドサーヴィスはそれだけに留まらず手広くやっている。特に治安が悪化しやすい風俗街とは密接な関係があって、我々の関与なしで風俗街に店を出すのは難しいだろう。現に、この街の風俗街の大半はオルドサーヴィスが直接経営している風俗店だ」


リリアはワイルの言葉を聞きながら、街の中で見た光景が脳裏に浮かんだ。帰り際の夕闇が迫る中、暗がりで輝くネオンの看板。その鮮やかな光の下で、道端にたむろする人々の無言の視線。彼女はそれらの記憶を、新たな視点で見直し始めていた。


「黄金の輝き」と呼ばれる風俗街は、黄金の平原サテライトの隠れた名所だった。その名は、街全体を覆う黄金色のネオンサインに由来していた。表向きは観光客向けの娯楽施設として宣伝されていたが、その実態は複雑で闇深いものだった。オルドサーヴィスは、この地域の治安維持を名目に、実質的な支配権を握っていたのだ。


「つまり、私たちの存在が街の一部にとっては利害の対象になっている、ということですね」リリアは小さく呟いた。


ワイルは彼女の言葉にうなずき、彼の瞳には哀愁が漂っていた。「そうだ、リリア。私たちは秩序を守る存在である一方で、多くの人々の目には冷たく映ることもある。特に、私たちが関与している風俗街や、その背後にあるビジネスの側面を知っている者たちにとってはね」


リリアは深く息を吐き出し、目を閉じた。その瞬間、彼女の中で何かが変わった。冷たい視線の意味を理解したことで、彼女はこれまで見えなかった部分を見つめ直し、新たな視点を持つことができた。


「理解できました、ワイル先輩。ありがとうございます」リリアは再び窓の外を見つめ、遠くに広がる街並みを目に焼き付けた。


夜の帳が降り始め、街の灯りが一つ二つと点り始めた。その光の中に、リリアは黄金の平原サテライトの二つの顔を見た。表の顔は、豊かで平和な楽園。しかし、その裏には深い闇が潜んでいた。オルドサーヴィスは、その両面を巧みに操り、サテライトの秩序を維持していたのだ。


リリアの心の中で、正義の守護者としての誇りと、組織の闇の一端を知った戸惑いが交錯していた。彼女は、これからどのようにしてこの複雑な現実と向き合っていくべきか、深く考え始めていた。窓の外に広がる黄金の平原の夜景は、彼女の決意と葛藤を静かに見守っているかのようだった。

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