第5話
「ただいま。」
「あ、兄ちゃんお帰り!」「「「「おかえりなさーい!」」」」
終業式の日の慌ただしい放課後を過ごし、帰宅した俺を出迎えてくれたのは多くの子どもたちだった。
「おう、いい子にしてたか?」
答えたのは俺以外で最も年長の子。
「当然だろー。みんなもいい子だったぜ!母さんもいるしな!」
「そうか。ならいい。ほら、遊んでおいで。」
「「「「はーい!」」」」
俺が言うと、子どもたち一斉に走っていった。元気なことだ。
俺の帰宅後一番の行動は決まっている。
「よ、帰ったぞ。」
そう彼女の写真に声をかける。うちは貧乏だから、仏壇を買うことも、個人の墓を建ててやることもできない。
俺達は孤児だ。俺も彼女も小さいときからこの孤児院で育った。だから、夜遅くまで話したりできたし、ほとんどの行動は一緒だった。同い年だったし、小・中学校は同じで行事もだいたい合わせていた。この孤児院は彼女との記憶箱みたいなものだ。
俺にとって最も近い人間だった。物理的にも、精神的にも。
高校入学が決まったとき俺達は良かったって喜んだし、母さん―――孤児院で子供の世話している女性がお金は気にしなくていいって言ってくれて、いつもは質素な食事がその日は2品も追加されて、豪華になった。
高校入学の3日前に急に彼女が倒れ病院に運ばれたけど、入学式の日に死んだこと。まさか、殴ったり、頭を打ったりしてもなんともないと思っていた彼女が倒れたときは、隕石が落ちたかってぐらい驚いた。彼女は急性の病気で、運ばれたときにはもう手の施しようがない状態だった。母さんの頼みで本当に死ぬまで治療が続けられたとは言え、そこから3日ももったことに医者は驚いていた。俺は流石の生命力だと思ったが。そのせいで学校や地域から、孤児だからとか、不遇だとか言われる筋合いは無いと思っている。
彼女の墓を孤児院の庭に作ったときのことも記憶に新しい。もちろん、遺骨を埋める訳ではない。彼女の遺骨は近くの寺にある。正式な墓は高くて建てられないから、みんなで手作りの墓を作った。墓の下に埋めるものを探すため、遺品を整理したとき、彼女が孤児院に来た経緯を知った。彼女の親はいわゆるデキ婚で、夫婦仲は最悪だったそうだ。暴言、暴力は日常。それで、いつぞやの夏に父親が蒸発。少しして、彼女はここに連れてこられ、母親も、という感じだったらしい。
他にも、この場所には彼女との思い出が詰まっている。他愛ない話で笑いあったことも、方針の違いで永遠と議論したことも。
俺も彼女も、互いにほとんど気を許していた。でも俺は、彼女のことを親友だとは思わない。少なくとも、親友以下ではない。かと言って、恋人以上と言う訳でもない。そういったことは話さなかったな。もう過去には戻れないし、彼女は死んだから2度と話す日はこない。だがいつか、話してみたいな。そんなことは有り得ないが。
幼い声が響く。
『歳をとったり、身長が伸びたり、成人したりしても、人間の本質が変わることはない。私も、君も。変わっていくように見えても、それは表の一部が必要だから変わっただけ。根本である考え方は変わらない。だから私たちは、いつも自分が思った行動をとればいいの!』
そうだな。
【あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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もう有り得ない日に 方夜虹縷 @houya523
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