第4話

何気ない日常はたったひとつ、小さな出来事で終わりを迎える。それが大きな出来事ならなおさら。あの日彼女が死んで、僕の日常が終わったように。


「なぁ。なんでお前みたいなやつが学校来てんだよ。」


そう告げてきたのは、たぶんクラスメイトの男子。後ろには仲間と思わしき男女が数名いる。


一学期の終業式の後、僕は彼らに呼び出されていた。そして来てみればこれ。


「ぶっちゃけお前キモいんだよ。クラスに馴染もうともしない陰キャがよ。」


「そうよ。あなたみたいなのがいるからクラスの輪が乱れるの。」


「不気味なんだよお前。ほとんど喋らないし、ずっと遠くを見てるし。」


次々に彼らが言ってくる。あいにく、僕は無視できるから特に何とも思わない。

それで、文句を言うためだけに呼び出したの?


「そんなわけないだろ。」


彼らの中でリーダー格の男子が言う。外見は金髪ピアスとザ・陽キャって感じだ。この高校はそういうの禁止のはずだけどなぁ。


「お前がいるとクラスの気分、モチベが下がるんだよ。だから、そんな奴は社会にいらない。学校もだ。さっさと学校辞めろ。」


「そうだ!そうだ!」


「周りのことも考えろ!」


彼女は僕に友達を作れ、と言った。でも僕はやっぱり人付き合いは苦手だ。悪いけど永遠に気の許せる友達はできない。

リーダー格の男子が続ける。


「これがクラスの総意だ。今の政治は多数決で決まる。だから、お前は多数決で辞めることが決まる。」


こいつは何を言っているのだろうか。学校を辞める決定権は僕にあるはずだ。


「諦めるんだな。お前みたいな不遇な人間が敵う訳がない。ひとりのお前と多数の俺達じゃな。お前は弱いんだよ。」


弱い、か。

今までの人生で、答えが出なかったから彼女言い返せなかったのは2回だけ。

1回は『夏』についての話のとき。

もう1回は


『私達は弱い。身体的にも、社会的にも。だから、毎日を精一杯生きるしかないんだよ。なにができるかを考えて、それをうまく活用して生きることに使う。私達が取れる道はそれしかないんだよ。』


あのときは答えられなかったけど、今ならちゃんと答えがある。でもこれは、彼女とは違った考えだ。

彼女らしくないね、あれは。あれだけ青春青春って言っていたのに。

僕は間違いなく彼女の影響を受けているだろう。それは彼女も同じ。だから、気が合うときが多かった。だが、真面目な話の時はそうじゃなかった。結局、最後までと彼女の意見があうことはなかったな。


「さて、答えを聞かせてもらおうか。」


リーダー格の男子が言う。ここで彼女なら素直に従うことを選んだろうな。


「断る。」


「何?」


俺ははっきり答えた。そりゃそうだ。

リーダー格の男子が怒った様子で俺の胸ぐらを掴んでくる。


「お前!自分がクラス邪魔をしていると分からないのか!みんな為を思った行動ができないのか!」


「だから何だよ。そもそもお前らに退学について口出しする権利はない。大人数でくれば、はいそうですか、って従うと思ったのか。」


「当たり前だ。多数の意見で決める。民主主義の基本だろ!」


「どこが民主主義だよ。お前がやっていることはただの脅しだ。」


「お前!」


沸騰した男子に俺は腹を殴られる。


「あーあ。手を出したな。」


「うるさい!お前が素直に従っていればこうはならなかったぞ!過去の自分を恨んで後悔するんだな!」


「残念ながら、俺はそうはならねえよ。そうなるのはお前らのほうだ。」


「何・・・?」


困惑する彼らに俺はポケットからスマホを取り出してみせる。録音中と表示されたスマホを。


「なっ」


「今までの会話全部録音してある。あとは俺が教員に申し出れば終わりだ。名前を言ってないからって無駄だぞ。俺が言って声を参照すればすぐにバレる。」


「そ、そんな・・・・・・。」


「わ、私は悪くない!言い出したあなたの責任でしょう!」


「はぁ!?ふざけんな。もとはお前だって・・・・・・。」


リーダー格の男子は崩れ落ち、他の奴も責任を擦り付けあう。俺はその光景を横目に、歩いていく。


職員室に報告に行って、あったことを伝え録音データ提出してきた。奴らへの対応のこともあり俺は帰されることになった。



『うまく活用して生きる。それしかない。』

そう彼女は言った。でも俺はそうは思わない。

使えるものは使う。そこは同意見だ。でも、彼女は防御に、俺は攻撃に使う。彼女は使えるものをうまく活用し、攻撃されても少しでも長く生きれるようにする。俺は攻撃されれば使えるものを活用し、自分が不利にならないよう相手を追い詰め生きれるようにする。

俺は弱くても、強くあろうとする。生き残り、つぶされないように。終わらないように。



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