第2話
真新しい制服を着て、教科書の入ったカバンを持つ。
入学してからすでに1週間がたった。人は慣れやすい生き物で、あれだけ迷いそうになった登校も、落ち着かずソワソワしていた授業だって、今はなんてことない。
僕は靴を履いて、外に出る。まだ、春の陽気が心地良い。
僕の隣にいっしょに登校しようって、楽しもうって言っていた彼女はいない。
◇
学校に着き、教室に入る。僕はかなり遅い時間に登校するからクラスメイトはほとんど揃っている。本当に1週間という時間は彼らにとって十分すぎたようで、クラスメイトはいくつかのグループに別れて談笑している。同じ学校出身の人は少ないはずなのに。
これも彼女が言っていたことかな。
◆
「いいかい、君。高校に入ったら真っ先に友達を作るんだよ!」
入学まで、1ヶ月を切った頃。
彼女が急に言い出した。それも適当に作った台の上で、演説するかのように。
どこかで頭でも打ったのかな?
「そんな訳あるかい!」
両手をブンブン振りながら言われた。やっぱりどこか打ったみたいだね。それか何か変なものでも食べたんだろう。
「ああ、もう!そうじゃなくて!友達だよ友達!分かる?どぅーゆーのーともだーち?」
ほんとにどうしたのだろう。変なことを言い出すのはいつものことだが、今日はいつになくおかしなテンションだ。
まあそんなことはどうでもよくて、高校に入ったら友達を作るべきだっけ?なんで?
「いや・・・先にボケてきたのは君じゃん。どうでもいいって・・・。本当に頭打ってたらどうするのさ。」
至極真っ当に返したのになぜか呆れられた。
あなたが頭打ったぐらいでおかしくなる訳ないし、僕が先にボケたことはないよ。いつもあなたが何か言い出して、僕がそれに乗っかるのがいつもの流れだよ。
「むぅ〜。」
事実なんだからハムスターみたいにならなくても・・・。
ほら、友達がどうとか言いたいんじゃなかったの?
「そう!友達だよ!」
話をふると彼女は勢いを取り戻した。言わなきゃ良かったかも。
友達ってことは他の人と喋らなきゃ行けないよね。僕はそういうの苦手なんだけど。
彼女は僕が苦手と言うのを全て無視して言った。
「あのね、友達は多ければ多いほど良いんだよ!私みたいに楽しくお話したり、放課後に遊びに行ったりできるかもしれないよ!多く作れなくても親友って呼べる、気を許せる親友を作るべきだよ!君みたいな勉強の虫だって、勉強会ができたり、勉強から抜け出せたりするんだよ。これなら、君にもメリットがあるでしょ?」
うん、確かに理に適っている。それが、似たような内容で聞き覚えがなければね!
「あ、気づいちゃった?」
つまり友達云々も、この間言っていた青春がどうのに関係しているの?
「うん、そうだよ。高校の友達は青春を構成する大事な要素だから。ふふっ、私はコミュニケーション能力が高い。できた友達に君のことを紹介しまくってやるんだ。そうしたら、君も抗うことができずに青春の道へと・・・」
ふーん。で、本音は?
「私の友達に話しかけられてオロオロしている君の姿が見たい!」
ダメだ、性格が悪すぎる。打ちどころが悪かったようです。最善は尽くしましたが、もう手の施しようがありません。残念ながら・・・
「やっぱりボケは君だよねぇ!?その話終わったでしょ。なんで引っ張り出してくるのさ!?」
◇
そんな会話をしながら僕らは毎日を過ごしていた。他愛もない会話だけど、それで笑い合える僕らは幸せだったのだろう。
思えば、僕は何年も彼女と仲良くしていたが、悲しんだりしていることを見たことがないかもしれない。
僕は彼女の事を知っているようで知らないのかも。ただ年月が全てじゃないと言うことか。
そんなことを考えながら自分の席に向かう。途中でクラスメイトの話し声が聞こえてきた。
「ね、あの子があの・・・」
「シッ!聞こえちゃうよ。」
僕はクラスメイトが自分のことをどう言おうが気にしない。彼女に言われたように僕は勉強の虫だ。クラスメイトは勉強にあまり関係がない。
また、他愛もない1日が始まる。
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