第8話 依頼を出しましょう
「さて、あなたたちがくるまでの私の行動についてお話しします。まずは授業が終わってから。私は一年一組の教室を出て、まっすぐ図書室へ向かいました」
一年一組っていうことは、秋野さんは特進クラス……つまり、普通クラスよりも頭がいいクラスってことになる。
さすが秋野さんだ……。なんていうか、初めて見た時の雰囲気からしてすごく頭が良さそうだなって思ったんだよね。
だけどまさか、特進クラスの人だったとは思ってなかったんだ。聞いた時は、僕も沙知も目を見合わせてびっくりしちゃった。だけど秋野さんは全然そんなことどうでも良さそうな顔で、話を続けた。
「図書室に行くと、カウンターのところに先生がいました。ええ、四月に私たちが図書室の使い方を教わった司書の山崎先生です。先生は職員会議があるとのことで、私に図書室当番を頼んでここを去っていきました。そして私は、この空間に一人残ることになりました」
山崎先生。すごく優しそうな年配の女性の方だ。この中学校に何年もいる、ベテランの司書の先生なんだって。
って、そうじゃなくて。それじゃあ秋野さんは、それから僕たちが図書室に来るまでの間に本の位置を変えたっていうことかな……? だけど、本当にどうしてそんなことをしたんだろう……。まだ分からないや。
「ええ、もう気づいていると思います。私はそれから、あの本棚の本の場所をバラバラに入れ替えました。話が長くなってしまいましたね。さて、私が一体どうしてそんなことをしたのか……」
秋野さんはそこで言葉を切る。なんだか、すっごく勿体ぶるなぁ。というか彼女はこの状況を楽しんでいるんじゃないかってくらい、なんだか少し笑ってるんだよね……。
「では、私から再びあなたたちに依頼を出しましょう」
「依頼? もう事件は解決したでしょう? 本がバラバラになっていたのも、犯人はわかったわけだし」
沙知が首を傾げて秋野さんにそう問いかけた。でも秋野さんは、静かに首を振るのだ。
「依頼内容を思い出してみてください。私が解決していただきたい謎は、まだ残っています」
「依頼内容か……。『鍵が消える事件』と、『幽霊の噂』、この二つがまだ残っているって、秋野さんは言いたいんだね?」
僕が言うと、秋野さんは満足げに頷いた。
「ええ、その通りです。図書室の鍵がよくなくなること、そして図書室に関する幽霊の噂があとを立たないこと……。私が解決していただきたかったのは、元々はこの二つの事件だけでした」
秋野さんは沙知の前に立って、彼女の両手を手に取ってふわりと微笑みかける。
「だけどまずは推理力を調べようと思ったんです。私が『幽霊』という言葉を口に出していたことで、お隣の助手さんは見事に先入観を抱いていましたね。この事件は、幽霊によって引き起こされている事件であるに違いないと」
秋野さんのいう通りだった。僕には先入観があったんだ。あれだけ幽霊のことを聞いていれば、幽霊が事件を起こしているんだろうなという前提で事件を解決しようとしてしまう。僕は自分から、自分の推理の幅を狭めてしまっていたんだ。
「綾森さんは、現場の状況を詳しく調べ、整理し、そして見事答えにたどりつきました。探偵に相応しい推理力です」
秋野さんに褒められて、沙知はご満悦のようだった。「えへへ、それほどでも……あったり、するかもしれないけど?」と満更でもなさそう。
確かに今回は僕の負けだ。悔しいけれどね。
「試すようなことをして申し訳ありませんでした。だけどこれで、あなたたちならきっっと事件を解決してくれるであろうと確信が持てました。ですから綾森さん、成宮さん。また、この図書室の謎を解いてくれませんか」
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