第6話 おかしなところは

 秋野さんは一年生の図書委員で、部活がない日は放課後の図書室当番をやっているんだって。


 部活は美術部なんだけど、一週間のうち水曜日と金曜日はお休み。今日は水曜日だから、当番の日だったみたい。


「改めて、探偵さん。この図書室に起きる謎を解決してくれませんか」


 秋野さんは自分についての話をしたあと、僕たちにそう言ってきた。


「秋野さんは幽霊を見たことがあるの?」


 沙知が彼女に尋ねる。秋野さんは少し間を置いてから、表情を少しも変えずに言った。


「それらしき人影を見たことがあります。だけど本当に幽霊だったのかは……。人がいなかったはずの図書室で人の姿を見たというだけで、本当はすでに人がいたのかも知れないですし。だけどそういった噂は、最近よく聞きます」


「なるほど……」


「人がいないはずの図書室で人を見るなんて……うう……本当に幽霊がいるのかしら」


 僕の隣に立っていた沙知がブルブルと身を震わせた。僕はやっぱり、誰かの見間違いなんだろうって思っているんだけど……。


 とりあえず、見てきっちりと調査しないことには始まらないよね!


「それじゃあ早速、何かおかしなところはないか見て回ろうか、沙知」


「え、ええ……分かったわ」


 沙知はまた僕の後ろに隠れて大人しく後をついてきた。


 初めは図鑑コーナー。生物系や宇宙系の図鑑が本棚にずらりと並んでいる。特におかしなところはないみたい。


「問題はなさそうだね。あっちも見てみよう」


 次にカウンター横の「今月のおすすめ」コーナー。図書委員が選ぶ今月イチオシの本たちが並べられてるみたい。うーん。ここも怪しいところはなさそう……?


「理玖、見て!」


 その時後ろにいた沙知がヒョイっと顔を出して僕の右を指差した。


「えっ? 何?」


「シャーロック・ホームズがおすすめされているわ! お目が高いわね、この人!」


「あ、ああ……なんだ、びっくりした……」


 何かおかしなところがあったのかと想って、焦っちゃったよ。何もないのはいいことなのか、悪いことなのか……よくわからないけど、なんだが不気味だな。


「じゃあ……あっちにも行ってみようか」


 そして次に見たのは日本の現代小説コーナー。僕がよく読んでいるお気に入りの作家さんの本も並んだりしているよ。


「う〜〜ん……」


 やっぱり、何もおかしなところはない、のかなあ……って、あれ?


「これ……」


 本が、バラバラになってる……? 僕が見たのは、同じ棚に並んでいるシリーズものの小説の数字がバラバラになって並んでいるところだったんだ。


 4、7、2、6、1、8、……って言う感じでね。これはすっごく不思議だ。いくらなんでも、こんなにバラバラになることってある……?


 返された本を元の場所に戻すのは図書委員さんの仕事だし、借りる時だっていちいち順番を変えるなんていうイタズラをするなんてことないだろう。そんなことをする人がいるとしたら、相当暇な人だ。


「あれ、また……」


 いつの間にか僕の隣に立っていた秋野さんが、小さな声でそう呟いた。だけど僕の耳には、しっかり届いた。僕は結構、耳がいい方なんだ。


「どうかしたの?」


「ついさっきしっかり整頓したばかりの本棚です。この小説、さっきもバラバラになっていたからきちんと順番の通りに直したのに」


 なんだって! ほんのちょっとの時間で、こんなに本の順番がぐちゃぐちゃに入れ替わるなんて!


「それに、今日の放課後はあなたたち以外この図書室を訪れていません。つまり、誰もいないのに、こんなにぐちゃぐちゃになったんです」


 僕は驚きすぎて、なにか喋ることもできなかったんだ。とにかく、固まってた。


 僕の後ろに立っていた沙知の方を見ると、彼女は少し青ざめた顔で細々と言った。


「やっぱり、いるのよ……。本当に、幽霊が……」

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