第4話 僕たちの推理で

「準備って、いったいなにを?」


「まあ見ててよ」


 僕はいらない用紙を折って、箱みたいなものを作る。


「これは意見箱」


「いけんばこ?」


「うん、学校で起きた不思議なことを紙に書いて、この箱の中に入れてもらうんだ。これなら僕たちがいちいち聞いて回る必要もないし、何より助けを必要としている人に役立つ」


 そもそも僕たちに依頼が来るのかどうかも怪しいけど……。でも、こうして行動に出ないと始まらないからね。


「なるほどね……依頼、本当に来るかしら?」


 沙知は珍しく弱気になっていた。顔を下に俯けて、手を体の前で組んでいる。


 一瞬、その手を握って安心させてあげようかと思った。手を伸ばすけど、「いけない」と思って咄嗟に引っ込める。


 やっぱり恥ずかしい。それに急に手を握ったら、嫌われちゃいそうだし……。ここは、安心させてあげられる言葉をかけるだけにしておこう。


「大丈夫だよ。みんな、意外と身近で困ったことが起きたりしているはず。そういう人たちを、僕たちの推理で助けてあげるんだ」


 僕が言うと、沙知は少しだけ自信がついたような表情で「ええ!」と頷いた。




 そして、その翌日。放課後に箱の中身を見てみた僕らは、びっくりして「え、ええ〜〜〜〜〜〜っ!?」と声を合わせて叫んじゃったんだ。


「は、は、入ってる! ねえ理玖、紙が入ってるわよ!」


「ま、まさか本当に入ってるなんて……。早速みてみよう!」


 箱から一枚の紙切れを取り出して、おそるおそる開いてみる、二人でその紙を覗き込むと、中には小さめの字で何かが書かれていた。


「と、とりあえず読むよ。『この学校の図書室は謎が多くて不気味です。例えばどんなに本を整理しても位置がバラバラになっていたり、あと、鍵もよくなくなります。それと、幽霊を見たっていう噂もよく聞きます。解決できるなら、してほしいです。 図書委員A』……」


 思ったより本格的な事件に、僕はかなりどきどきしていた。ふと隣に立つ沙知の顔を見ると……。


 予想通り、ものすごく怯えているみたいだ。


「ゆ、ゆゆゆ、幽霊っ!? そ、そんなの探偵に頼んでる場合じゃないんじゃないかしら? わ、わたしは幽霊は専門外なのっ!」


「幽霊を専門にしている探偵もなかなかいないと思うけどな……」


「とにかく私は無理よっ! 図書室に幽霊が出るなんて聞いてないわ……! 図書室にはぜったい入れない」


 自分の手で自分の体をギュッと抱いて、沙知は怯えるみたいに体を縮ませる。その姿がまた可愛くて、僕は少しにやけそうになった。いや……ちょっとにやけちゃってたかも。


 慌ててコホン、と咳をして、僕は彼女に向き直る。


「まあまあ。とりあえず、調べるだけ調べてみようよ。こういうのはだいたい、何かの影が幽霊に見えた、とかそんなのばっかだから」


「で、でも本当に幽霊が出たらどうするのよっ!!」


「大丈夫」


 僕は彼女の目をまっすぐに見て、頷いた。


「幽霊が襲ってきても、沙知のことは僕が守ってあげるから」


「……ほんとに? 信じていい? 自分だけ先に逃げたりしないわよね?」


「ははっ、そんなことするわけないじゃないか」


 そんなダサいこと、沙知の前でぜったいするはずがないもんね。


「うう……分かったわ。それじゃあ図書室に行きましょう」

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