Ⅸ
別れの余韻に浸っている時間はなかった。
さてーー! 天の川を壊さないために、もっと軌道を変えないと・・・
「デネブさまああっ」
カササギの群れだった。洪水の横っ面目掛けて、光り輝く水色の閃光となり突撃してくる。それは無数に降りそそぐ流星雨さながらの景観で、
「おまえたち、どうして・・・そんなに羽を濡らしてしまったらーー」
「わたくしどもはあなた様の分身ですので、最後までお供させていただきます。こんな塵のような
「う、動いた?・・・動いたぞっ」
怪物のように暴れていた洪水がとうとうバランスを崩したのである。「このまま生きましょうデネブさま!」
「うおおおおおおっ・・・!」
デネブとカササギは、そのまま銀河の果てまで洪水を運んでいった。次第に薄れていく意識のなかでーー
ーーそうして辿り着いたそこは、濃淡な藍色の惑星だった。虫や動物の鳴き声のきこえない、日の光を知らないような、痛いくらい冷え冷えとする
古い線路の上に横たわっているデネブはひとの姿にもどっていた。疲労困憊のあまり眉ひとつ動かすのに苦労する。
あまりに寒いから丸火鉢が欲しかった。いやせめて、インバネスコートのポケットに忍ばせていたはずの灰式懐炉をーーしかし、そんなこともすぐにデネブはどうでもよくなった。
どうやら近くに崖があるようで、奈落の底からビュゴオオ、ビュゴオオオと気味の悪い音が響く。
あたりいちめんに立ち込める暗い霧のせいで、錆びた線路の鉄の臭いが強まっている。
空気は湿っていて肌に纏わりつく。
無数のカササギたちは、ぼろぼろに千切れたからだをデネブの周りに横たわらせて、ぴくりとも動くことはなかった。きらきら水色の体毛はずぶ濡れになって黒く染まっていた。
デネブのからだは辛い苦しいと叫んでおり、そんな状態だからかもしれない、カササギの死を目の当たりにしても哀しみをほとんど抱けなかった。
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