Ⅶ
「後生です。わたしに考えがございます。お力を貸してください、お願いします」
「いい加減にしやがれ・・・」
ヘルクレスが腕をかざすと、菩提樹みたいにおおきな棍棒がどこからともなく現れた。その武器であらゆる神話の魔物たちを葬ってきたことは銀河系に知れ渡っていた。
小さな惑星ほどの重さに匹敵するといわれる棍棒を、小枝のように軽々と握りしめている。そして肩越しに鬼の形相で睨み付けて、
「だれに口を利いているつもりだ? このふざけた氾濫を蹴散らした後、きさまの嘴をへし折ってやる。覚悟しておけ小僧・・・!」
ヘルクレスは瞬きよりも速く振り切った。「うおおおっ」、バリバリバリと落雷みたいな音があがるひと振りで、洪水は激しく飛び散って水飛沫をあげている。なぐられた部分は齧った林檎のように吹き飛ばされており、あきらかに流れの勢いは削がれていた。
しかし、
「何っ、棍棒に皹が・・・!?」
ヘルクレスの表情から戸惑いはうかがえないものの、目の色に純粋な驚きが浮かぶ。アルタイルとベガも思わず息を呑んでいる。あの伝説の棍棒が傷つくなんて。
その場面において、デネブは冷静だった。かれはいちだんと声を張り上げて「お願いします。わたしの友を助けてください。ベガのいる岸なら高台なので安心できます。あそこまで彼を運んでください」
「小僧め、減らず口をっ・・・!」
そのとき、ベガの鋭く短い悲鳴が響き渡る。その場に居合わせていた全ての者が、同時にふり向く。
岸辺からことの成り行きを見届けていたかのじょの足もと、宙に浮かぶ惑星のストゥールが崩れたのだ!
「ベガ!」デネブの背中で、アルタイルが絹を裂くような悲鳴をあげる。
「お願いします、ヘルクレスさまっ」
「・・・このくそったれがっ!」
デネブの叫びの訴えに、ヘルクレスは天の川の堤防を力一杯蹴りつける。そして、入道雲みたいな巨体を軽々と跳躍させ、落下していたベガを肩に担ぐ。
「目障りな童女よ、しっかり掴まっておれ。振り落とされても知らんぞ!」亀裂の入った棍棒を3つ、4つにへし折ると、「ふんっ」立て続けに放り投げた。ずしん、ずしんと銀河全域に伝わるような鈍い衝撃が轟く。棍棒の残骸は、遊具のステップのようにデネブの傍らに突き刺さった。
「ありがとうございます、ヘルクレスさま!」
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