Ⅵ
そんな、まさかーーデネブは驚愕のあまり目を見開く。
「いけません、ヘルクレスさま。あなたは銀河系でも五本指に入るほどの星座ではありませんか。それなのに、神さまに授かった持ち場を離れてしまっては秩序が乱れてしまいます」
「耳障りな鳥公めっ、きさまはだれだ、名乗れ!」
「デネブです。星を編む見習い、デネブです」
「なに、デネブだと? そのけったいな恰好はなんだ? この洪水はなんだ、説明しろ!」
「お願いです、ヘルクレスさま。神さまの宣告はぜったいなのですーー」
「ふん、黙れ。神なんぞ知ったことか。やれやれ相も変わらず会話の通じんガキだ、心底虫唾が走る。きさまがデネブであることは間違いないようだ。
そんなことよりも、この銀河はおれさまのものだ。おれさまが支配者だ。このふざけた洪水を完膚なきまでに吹き飛ばさないと気が収まらぬ」
デネブの背を駆けながらアルタイルは眉を
けれど何はともあれこれで氾濫を食い止められる、そう安堵したのもつかの間、ジュゴオオ、ジュゴオオと堰を切ったように洪水の勢いが増してしまう。
「むむう、ここまでおれさまを本気にさせたのは、獅子のデネボラと決闘して以来かもしれん・・・!」
両腕で抑えきれなくなって思わず後退るヘラクレスの長髪が、デネブの嘴に絡まりそうになる。
「・・・よし」最悪の事態を想定したデネブは覚悟を決めて頷く。
「カササギたち、よく聞いておくんだよ。
来年のきょうまでに、氾濫しても流されないような橋をつくるのだよ」
「もちろんです、もちろんですとも。しかし、どうしてそんな言い方をなさるのでしょうか。これが今生の別れとでもいうおつもり
でしたら、聞きたくありません。まだ、間に合います。
神さまに頼めば、きっと、まだ助かります。あなたは助からなければならない」
理解が追いつけないアルタイルは視線を彷徨わす。ずっと成績優秀で憧れの的だったかれのそんな表情は初めてで、場違いだと承知していてもデネブは眩しそうに目を細めるのだった。
「デネブよ、おまえはいま、何をかんがえているのだ・・・?」
友の言葉の意図が読み取れず、漠然と嫌な予感が膨らんでいくのに耐えきれないと、脅えたように問うアルタイル。
しかし、デネブが何かを発するより早く、ヘラクレスは声を荒げていった。
「退け、小僧ども! おれさまの棍棒ですべてを蹴散らしてくれるわっ」
からだを揺さぶる叫びの威圧に、カササギたちは八方に吹き飛ばされてしまう。
「そんなことをしては、あたりの星の公転軌道まで狂ってしまいます。それよりも、アルタイルをベガのもとへ運んでいただけないでしょうか」
デネブは怯むことなく語りかける。
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