Ⅳ
そしてこの事態を速やかに神さまに
その直後のことーー天の川の畔に、なつかしい顔が舞い降りた。
アルタイルとベガである。
まさしく銀河の中天で煌めくアルタイルは、薄紫色の、刺繍のうつくしいスリーブを振り 乱して嘆いた。
「なんということだ、やっとこの日が訪れたというのに・・・!
おお、最愛のベガよ。この声がきこえるかい? これでは、きみのぬくもりを感じることもできない!」
川をはさんだ西岸で、ベガも眩暈がするようにふらふらと額に手をやる。宙にたゆたう被帛(ショール)が、かのじょのからだを支えてくれている。
「どうして運命はわれわれの仲を引き裂くのでしょうか。この日のために、わたしたちは身を粉にして働いたというのに。
ああ、アルタイル・・・あなたの声がきこえます。わたしの声もきこえますか? 目に見える距離にいながら、手を触れることもできない。
ただ愛し合っているわたしたちに、どうしてこれほど
そうして声にならない声で泣きはじめてしまう。
顔を覆う指のあいだから涙がポタッポタッと垂れ、それは氾濫した天の川に混じって流されることで、きらびやかな光の筋になるのだった。
ベガの涙を見た瞬間、デネブは心の中で決断するーーじつは、かれは生涯でいちどだけ、白鳥になることができるのだった。
それは神さまから授かったちから・・・とてもおおきな姿で、氾濫した天の川のうえで羽をひろげたら、橋の代わりになるだろう。
瞼をとじて合掌の構えをとる。そして、ゆっくり、ゆっくりと精神を集中させるーーすると、みるみるうちに
デネブは揺るがない心で叫ぶ。
「わが名はデネブ。神よ、ここに宣言する! ぼくを白鳥とするがいい!」
「デネブさま! いけません、それだけは・・・っ」
カササギたちは金切り声をあげる。かれがこれから行おうとしていることの結末を知っていたから。
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