Ⅱ
でも、結婚をして働かなくなったふたりに神さまは怒り、1年間でひと晩しか会ってはいけないという鉄則を作った。
そして、まさにこれから再会するのだ!
今夜9時になると、天の川銀河に橋がかけられる。そこで、かれらは365日ぶりに会える・・・積もり積もったことばを、膨れあがったきもちを、ようやく捧げ合うことができる!
「ああ、ついに会えるんだね。天気も晴れてよかった。きっと伝えたいことなんて山のようにあるだろう。
それでも、たとえ一晩中、唇が腫れるくらい語り尽くしたところで、一滴の水ほども互いの心は満たされないかもしれない。
だとしたら、ほんとうに辛い。なんて惨い罰を、神さまはあたえたのだろう・・・」
デネブは、まるで自分のことのように悦んだり哀しんだりをくり返すのだった。
そこで、ふと、はっとなる。神さまをわるく言ってはいけない。ナマコやヒトデにされて海底に沈みつづける天罰を受けた知り合いを思い出す。
そうして、地球経由で天の川に伸びる透明道路を、流れ星みたいなスピードでぎゅんぎゅん駆けていく。
ーーぼくは神さまから、夜が明けるまえにふたりがきちんとさよならをするように、見張り役を任されている。
ぼくもいろいろと話したいことはあったけど、いつか手紙でも送ればいいだろう。
だから、せめて・・・時間たっぷりまでふたりっきりにさせてあげるんだ。
デネブにしてはめずらしく、迷いのない意志が瞳に宿っていた。アクセルを踏む。わた雲を突きやぶると、もう線路はない。
宇宙に出た。暗く濡れたビロードの銀河系は母胎のような安心感がある。眩くて神秘的なイータカリーナ星雲は、いつ見てもわれを忘れるうつくしさ。バベルの塔みたいに放射状に膨張していて、それをなぞるように、光りかがやく水素ガスやチリを身に纏いながら駆けていく。
いったい何光年という高さなのだろう・・・うっとり見惚れていたら、デネブは目的のポイントに辿りついた。
「よぉし、ワープホールが見えたぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます