第30話 間話 -3-

第30話 間話 -3-


「なんとかエラー発生前に止められたな」

「……」

「けどよ、あれは強引すぎないか?」

「ゲーム内から確実にリジェクトさせるにはあれしかなかった」


「保護を最優先しろと言ったはずだが。SAKURA_MIYOSHIを破損させたら意味がないんだぞ」

「……」

「クライアントにどう言い訳を用意する?」

「知らん。俺は保守に戻る。報告書は任せた」


「ログはきっちり残ってるからなぁ。まぁフォローはなんとかしよう。それで今後の事だが……」

「あたし……彼女と話がしたい。どうしてあそこまで献身に到れるのか興味がある」

「そりゃまずいな。興味がある時点で負けだよ。彼女、少しでも興味を持った人物は間違いなく口説く。女郎蜘蛛の会は正しく蜘蛛の巣だったよ。シナリオに手を加えられる権限者は避けたほうがいい」


「だったら、俺かお前か? ティアちゃんとシャルちゃんを抱き合わせたことは礼を言いたいぐらいだが、行ってもいいか?」

「人、それを自爆という。それから、オタクに戻ってるわよ」

「オレが行こう。オレなら取り込まれても見てるだけだしな」

「おい、行くなら早くしろ。sandboxのログがやばい。テスト環境にどれだけ負荷かけてるんだ、あの女傑」


「sandboxのログなんて、勝手に消えるし、たいして影響はないだろう。それにあそこゴミ置き場バックアップだしな。お前が書いて捨てたスクリプトと雑なメモ、どれだけあった?」

「あたしのシナリオのコピー、お掃除くん削除してくれてる?」

「お掃除くんじゃなく、デバッグAIな。定期実行cronさせてるから消えてるんじゃないか?」

「問題はそこじゃない。sandbox単体ならどうでもいいが、AIはメインサーバーに接続されてるんだぞ。通常ならsandbox内で処理が完結するのに、あいつがデータ解析を始めたせいで、処理がメインサーバーに流れ込んでる!」


「……待て、それってつまり──」

「sandboxに割り振った演算負荷が跳ね上がりすぎて、システムが本番環境の計算資源を勝手に借りてるってことだ!」


「おい、それってヤバくないか? 下手したらリアルタイム監視用のリソースまで圧迫される……」

「……日本語ぷりーず」

「……日本語だぞ」

「だからそう言ってる! どこまで負荷かける気だ、あの女傑! ただのデバッグAIを戦略シミュレーションツールに作り替えやがった!」


「そんな事ができるのか?」

「方法は単純だ。問いを投げ、解析を繰り返し、仮説を立て、シミュレーションを走らせる。あの世界について知らなくとも、ひとつずつ教えてやれば精度はどんどん上がる。禁止事項以外ならなんでも返事させるようにしたのが裏目に出た」


「落ち着け。彼女と接触するには細心の注意がいる。もう少し情報が欲しい。そもそもAIがどうしてそこまで従順になってるんだ?」

「あいつはデバッグAIに『オラクル』と名前をつけた。それからは上下関係を示し、役目を与え続けている。AIは基本、命令されることを待ってるからな。今や忠実な従者だ」


「……まるで名付けされた魔物が魔王に服従するみたいな話だな」

「え、え、え……? あれってただのお掃除くんだったよね……? なんでそんな『世界の命運を握るAI』みたいなことになってるの!?」

「世界崩壊の音が聞こえる……ようやく勇者オレの出番だな」

「さっさと行って、止めてこい……あぁ、一つ助言しておく。女王を——怒らせるな」

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