第7話

 ノアは装備として渡されたポシェットのことを思い出した。

 アロマダウジングに入る前に、装具を身につけている時に、凍汰から受けた説明が鮮やかによみがえってきた。

 ノアがクリサリスのリングを嵌めている間に、凍汰はブレザーのポケットから革のポーチをとりだした。


「これ」


 いつもの無愛想な様子にもどって、凍汰が差し出した。


「これは、ある生き物の革でできてる。どうしても逃げきれない時に、クリサリスのリングでこすって、耳を澄ませるんだ。そうすればきっと、ノアを助けてくれる」


 ポーチの中には、小指の爪ほどの小さな細工物のアロマダウジング用のペンデュラムが3つ入っていた。

 普通のダウジングに使う振り子型のペンデュラムとは違うものだった。

 虹を宿した孔雀の羽と、禁欲の黄楊の櫛と、浄化作用のあるセージの葉を束ねたセイントブルーム、聖なる箒。


「三種の神器というか、神話に出てくる魔よけのようなもの、かな。いざという時、必要になる」

「いざという時に遭遇しないことを祈るよ」

「おまじないみたいなもの?」

「それより、もっと実用的。それに、迷信や伝承にも根拠はある。どんなにわずかな根拠でも、それを究極まで精練して力を集中させれば、その力は最大限に生かされる。これは、夢惣さんの受け売りだけどね」


 ノアはよし、っと心の中でうなづいた。

 自分は、守られているのだ、と、その思いがノアに力をみなぎらせた。

 と、突如ノアは解放された。

 ロータスの呪言文の力が消えたのだ。

 呪文に力を込められぬほど憔悴しきっていたロータスの力が尽きたようだった。

 ロータスはかろうじて残った力を振り絞り香煙を撒くと姿をくらませた。

 今の騒動で森の子たちはみんな逃げてしまった。


「追わなくていいの?」

「ロータスには、なにか考えがあってのことだと思う」

「信頼してるんだ」


「神官長であるアンバーが常軌を逸するようになってしまった今、この国を平らかにするには、副神官のロータスに動いてもらわなければならない」


 王子は、それから口をつぐんで、深く考えこんだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る