第2話

 そんなことを思い出しながら歩いていたノアに、ロータスが話しかけてきた。


「そうですか、アラバスター様は、時空双子に助けを求めにいらっしゃったのですか」


 ノアは、ロータスの求めるままに当たり障りのなさそうな部分をかいつまんで話した。

 話を聞いていたロータスが沈痛な面持ちで呟いた。


「それほどまでに追いつめられておいでとは。われら神官がふがいないばかりに」

「あの、彼から、まだくわしくは聞いていないのです。こちらに来ればわかる、としか」

「あなたは、先ほどご覧になられたか」

「神殿のこと、ですか」

「神官長アンバーは、アラバスターさまを心よく思っておられぬ」

「あの、それって」

「副神官の私からは、これ以上は申し上げるわけにはいかぬ。アラバスターさまから、じかにおききになられるがよい」


 それからしばらくして、ふいに空間が開けた。

 空間に満ちているのは、重く甘い匂い、そして、細く幾筋も天井より指し込んでいる気清かな月の光。

 開けた空間の壁面から天井にかけてを、巨大な舞扇や孔雀の羽のような羊歯植物の化石が天蓋のように覆っていた。

 その折重なり合う葉の隙間に、びっしりと浮き彫りのように嵌めこまれている琥珀には、羽虫から、三葉虫から、さまざまな昆虫や小さな生きものが、ささやかな呼吸を保ちながら息づいている。

 樹脂が樹木のかさぶたのようにしがみついている、まだ生きている古世代からの松は、濃い飴色の涙を流し続けている。


「この森は、わが国を支え民を守る、貴重な恵みの森」


 歩きながらロータスが言った。


「琥珀、ですよね、ここにあるの。装飾品にして輸出しているのですか」

「琥珀、ここでは、アンバーとも呼んでいる。それ自体は、ここでは聖なるもの。その装飾品となれば、王とその配偶者にのみ捧げられる貴いもの。よそになど決して出しはせぬ」


 ロータスは、きっぱりとした口調だった。


「アシッドアンバー、という物質をご存知か」

「アシッドアンバー?」

「琥珀、アンバーを溶鉱炉で溶かす際に抽出されるアシッドアンバーは、たいへん効果的な治療薬として、取り扱われている」

「おくすり、ですか」

「不老不死の……」

「不老不死?」


 伝説や物語では聞いたことあるものの、本当にそんなものがありそれを信じている人がいるという事実にノアは驚いた。

 ここは、やはり、ノアの住んでいる世界とは違うのだ。






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