ロストディア全土問題議会④
「サマイル殿!正気か!?その制度は何十年も使用されていないのだぞ!」
「言わずもがな、私達は本気で言っている。決闘制度はお互いが譲れないことを賭けて勝負するものだ。さぁ、ヨルフェイク殿?貴方はこの決闘を受けるのか?」
虚を突かれたかのように3人以外の人が唖然とするなか、ギルバートは考える時間を与えずに話を進めていく。
この決闘制度は数十年間使われてこなかったものだ。
爵位同格決闘制というものは、名前の通り爵位が同格、つまり伯爵位の貴族なら同じ格の伯爵位の貴族に、侯爵位の貴族なら同じ格の侯爵位の貴族に決闘を叩きつけることができる。
もちろん相手からの決闘の申し出を拒否することができるが、この決闘は互いの家のプライドを賭けたものなため、受けないといけない。
決闘を受けた上で負けたならまだしも、決闘の土俵に上がることすらしなければ他貴族に揶揄されることなどわかりきっている。
それが公爵家ともなれば、品格と世間体を第一に考えないといけない爵位なので、断るという選択肢は最初からないと言ってもいいかもしれない。
「1つだけ付け加えておくとするなら、私達サマイル公爵家は代理人を立てる」
「………それは…まさか…!」
ギルバートの言葉により、全員の視線がファルに向いた。
「お察しの通り俺ですね。俺はサマイル公爵家の名誉を背負って代理人として貴方側の家と戦わせていただきましょう」
『希代の英雄』が公爵家の決闘の代理人として戦う、これ以上ないインパクトにより全員の顔が驚愕に染まる。ファルの噂は魔法についての詳細は吹聴されていない。それは自身の目で周辺国トップクラスの実力を持つ男の手札と姿を実際に見ることができることを意味している。
その事実に戦うことが好きなベルミラは驚愕に顔を染めながらも、興奮を隠しきれない様子で目を輝かせている。
爵位同格決闘制において、決闘をする際には協力者、もとい代理人を立てることができる。その代理人は制限がなく、交渉によっては他国の王子や国王など身分が上の者や名の知れた騎士を代理人として決闘を受けさせることが可能だ。
ファルとギルバートが青い鳥を通して話し合った作戦がこれだ。相手がギルバートと同じ爵位の貴族家という点に着目してギルバートが発案した。そしてファルはその作戦にノリノリで乗ったのだ。
(こっちとしても賢者にも勝る魔法使いと戦いたいという目的もあるし、個人的な恨みもあるしな)
ワルダート・ヨルフェイク。その魔法の腕は賢者にすら勝る。魔法を巧みに使うワルダートはこの国では最高峰の魔法使いと言っても過言じゃないだろう。
ファルは置いておいて、彼に手合わせで勝てた者はおらず、絶対的なその魔法を扱うセンスと意志により、現代では最強クラスの座を欲しいままにしている。
あくまでファルを置いておいて、だが。
「……そこまで舐められて引き下がる公爵家じゃないな…!」
「さすがプライドだけはある公爵ですね。よく聞きますよ?ワルダートはただのクズの雑魚だって」
「クソガキが!貴様私をそこまで愚弄しておいてただで済むと思うなよ!
答えろ!!誰が私を侮辱した!!隣にいる貴様の父親か!!!」
「1つだけ言うとするなら、家族から聞いたわけではないと、だけ言っておきましょう」
(うん。家族から聞いたわけではないな)
「ヨルフェイク殿、決闘は受けるということでよろしいかな?」
「いいだろう。そこのイキがったクソガキと決闘をしてやる。死んでも文句は言うんじゃないぞ」
「いつまでも若いままでいられると思うなよ老いぼれ。俺の煽りで精神を揺らされるようじゃ、未熟にも程があるねぇ。
それとも、そこまで『希代の英雄』が憎たらしいか?」
ファルの一言に刹那、先程のベルミラすら越える憎悪の感情を見せたが、それも一瞬だった。
ファルの前置きが効いたのか、感情を揺らす様子はそれ以上見られなかった。
「場所は闘技場でいいな?そこなら存分に戦えるだろう」
「観客はここにいる貴族と王家だけ。あっ、でもその身内は呼ぶのはありにしましょうか」
「なぜだ?その必要はないだろう」
「じゃあ通例通り庶民や騎士達の観客もありにしますか?俺は一般的なルールでやるのもやぶさかではありませんけど。
一応言っておきますけど、庶民は賢者と昔からの仲だ。子供の頃から面倒を見てもらっていたという人も多いでしょう。それでもいいんですか?」
「……さっきの条件でいいだろう」
決闘する者同士が条件を決めていくのだが、揉めるようなら決闘制度の中にある通常ルールを使うように定められいている。
ファルは庶民に賢者のことを下手に知られるとまずい事態になりかねない可能性を考慮して、身内だけはありとした。こう言えばワルダートも断れないだろうと予想をつけてファルは提案したのだ。
ちなみに、何故身内だけは観覧オーケーにしようとしたのかというと、妹であるユリナにカッコいい姿を見せるためである。
最近会っていなかったのも付随して、どことなく忘れられかけているような錯覚を味わった。
シスコン気質なファルは、そんな妹に尊敬してもらうために無駄な交渉をしたのだ。
その真意に気付いているギルバートは呆れたように深くため息をついた。普段から兄や姉妹の溺愛っぷりを示すかごとく、自慢されまくっているのでその真意に容易に気付くことができた。
予定にしてなかったことを言われるとドキドキするものである。
「武器は基本的に何でもあり、殺しは無しにしておこう」
「なんだ?怖じけずいたか?」
「単にどっちかが死ねば世論が混乱しかねない。それはお互いわかってるだろ?
というかその制限を設けないと俺はあんたを瞬殺しかねない」
敵になった相手を煽ってしまう癖は割と昔からある。賊を殺したことなど数えきれない程あるので、日常的に口論で強気に出る癖がついていたりする。
ファルの煽りにそんなわけないだろう、と言いたげな微笑を浮かべ、決闘の条件が決まった。
「それじゃ、そういうことで決闘は明日。さすがにこの状況で俺の話なんかできないですよね?」
「……そう、ですね。『希代の英雄』に関しての話は決闘後…」
「いや~俺決闘終わった後は用事があるんですよね」
「はい?」
「ということで、その話はまた来年」
「……まぁ本人が話したくないというなら…」
宰相が大分不満そうな顔で言うが、ファルはそんなもの気にも留めない。
「あとヨルフェイク殿」
「なんだね?」
「決闘が終わるまでは賢者に手出しはなさらぬように。もちろん接触も禁止です。
忠告しておきますがどこに目があるかわかりませんよ」
「……了解した」
そう言うと、ワルダートは足早に会議室から出た。ファルの話がなくなったということでもう終わりと言ってもいいから誰も止めないのだろう。
少しして、ファルは淡々とした様子で会議室から出た。父親を置いていったのは言うまでもなく、空を飛んで帰ろうと思うので勝手に馬車で帰ってください。
父さんも空飛べるけどね。
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