魔法①


「へぇ、ラミ姉生徒会長になったんだ」

「そうよ。私偉くなったったのよ」

「ラミちゃんずっと学校でがんばってるって先生も言ってたからねぇ。ファルちゃんも学校に行けばいいのに」

「俺はいいよ。というか面倒くさいし、どうせ貴族社会に溶け込むようなことはしないし」


 シュリーブス侯爵家の別邸、その大きな屋敷の食堂では和やかな会話が繰り広げられていた。兄弟の現状、両親の仕事の話、どれも普段のファルには縁のないような事ばかりなのでとても新鮮に感じていた。


 目の前にある高級料理の数々に舌鼓を打ちながら、家族らしい会話を広げている。


「リールちゃんも久しぶりね!元気にしてた?ちゃんとご飯食べてる?病気や怪我もしてない?」

「元気にしてますしご飯も食べてますし病気や怪我もしていませんよ。ファルと一緒に過ごしているので不満が湧いてくるわけがないじゃないですか」

「あらぁ!もう2人は付き合ったの?!やっとなのね!!もう待ちくたびれちゃったわ!!」

「ユリアーネ、勝手に想像で決めつけたらだめだよ。君の悪い癖なんだから」


 謎にテンションの高い金髪の女性はユリアーネ・シュリーブス。ファルやフィル、ユリナやラミアーネの母親である。

 中年とは思えない程の美貌とプロモーションをキープしているため、20代後半にも見える。

 金髪碧眼のその色素はどこか神々しさを伴っているようにも見える、美しいものだ。


 そしてユリアーネを窘めた黒髪の男はフェルミール・シュリーブス。ファル達の実の父親でありシュリーブス侯爵家現当主でもある。

 その風貌は戦い慣れた一端の戦士の様に体格が良く、顔や手には幾つかの治りきらなかった傷跡が見え隠れしている。


 2人とも今の歳になっても仲が良いのでその息子娘である4人からはとても信頼と信用を向けられている。


「えへへ。ごめんねリールちゃん」

「いえ、私としてはそうなっても後悔はないのでは、という思いもあったりなかったり…」

「こっちを見てからかうな」


 期待の籠った瞳をファルに向けながら言うものだから勘違いしてしまいそうになる。冗談でも勘違いさせるような発言はやめてほしい。


 ファルの言葉にやれやれという呆れの感情を抱いたのが見て取れた。何故か一緒に食事をしている家族までもがそんな雰囲気を漂わせるものだから胃が痛い。


「まったく…。それで改めて、ファル、リール殿、よく王都まで来てくれた。半年ぶりに2人の顔を見たが、元気そうで何よりだ」

「フェルミール侯爵殿、ファルは用事がなければ数年は王都に来ることはなかったと思われます」

「やめい!リール!」

「なるほど、望んで会いに来たわけではないと……それなら一体どんな用事があってこっちまで来たのだ」


 その一言で食堂内の空気が和やかなものから真面目なものに変わった。王都でも噂になっているであろう『希代の英雄』についてもここで話せと言っているように感じた。


 ファルは腹を括り、とりあえず秘密にしていた情報のいくつかを話すことにした。


「まぁ噂に聞いている通り、僕ちゃんの二つ名は『希代の英雄』で間違いないですよ」

「やっと白状したわね。王都でその噂が流れた時、学園で本当に大変だったんだからね。もう噂を聞きつけた学生や教師がうじゃうじゃと」

「僕も父さんも職場の方で色々と質問責めにあったよ。あと母さんも婦人同士のお茶会で嬉々とした様子で尋ねられたみたい」

「悪かったって。でも一躍時の人になったんだから別に悪い気分じゃないでしょ?」

「ファルちゃんが自分で流した噂を覆したのは嬉しかったけど、噂が流れた時はデマかなんかだと思ったわ」


 予想していたことではあるが、あまりにも予想していた内容通りの目にあっていて面食らった。リールも微笑というか苦笑を溢しているので同じことを思ったのだろう。


「ファルが噂の『希代の英雄』なら魔法ももう発現しているのか?というかそれどころか顕現までいっているのか?」

「顕現ってなぁに?」


 今まで黙っていたユリナがフェルの質問に純粋な疑問を投げ掛けた。


「そうだね。ユリナは発現と顕現をまだ勉強でも習っていないからわからないか」

「それなら私が説明するわ」


 ラミアーネが魔法というものを語りだした。


「じゃあユリナ?魔法ってなんだかわかる?」

「えっとね、家庭教師の人は願いを叶える手段って言ってた」

「世間で言われている説の1つね。ユリナは魔法と魔術の違いはわからないよね?

 魔法も魔術も魔力を使って行使する技ではあるけれど、2つには決定的な違いがあるの」

「違い?」

「魔術は古くから存在する術式を学ぶことで行使できるようになる一方、魔法には術式というものが存在しない。言ってみれば魔術は一般的に魔力さえあれば誰でも使えるのに対して魔法は魔力があったとしても、発現という前提条件を踏破しなければ行使することができないの。

 そして、魔法を行使する前提条件である発現をした更に上の段階に位置するものが顕現なの」

「顕現したからといっても魔法の威力や効力が上がることがないパターンも存在するけどね。魔法については未だにわかっていないことも多いし、不確定な情報が混ざっているんだ」

「へぇ~」


 ラミアーネの説明にフィルが最後に付け足すことで魔法の解説が終了した。


 フィルが最後に加えた通り、魔法はわかっていることが極めて少ない。自信の願いを叶える手段、というもの以外でも感情の量で魔法が発現するみたいな説があったりもする。


 数百年前には魔法を発現することができた魔法使いが今よりもある程度の数がいたが、今ではほとんど存在しないといっても過言じゃない。このロストディア王国では国に仕える仕事に就いた者に魔法の発現の有無をアンケートしたら十数人しか確認されなかった。

 把握しきれていない可能性もあるが、それでも少ない。発現でさえこれなのだから、顕現のレベルに至っている者はもっと少ないのだろう。


「まぁ概ねラミ姉とフィル兄が言っていた通りだな。あと父さんの質問に答えるなら俺は顕現を終えている」

「すごいわね…!顕現できる人なんて10人もいないって言われてるのに……まさか弟が、というかクズ侯爵って呼ばれてた弟ができるなんて…」

「確かに驚愕ものだよ。僕は魔法が発現した時にパーティーをあちこちで開いたっていうのに、顕現のレベルまで至ってるなら勲章だって貰えるんじゃないのか?」

「ファル兄ちゃんすごいんだ~。まったく見えないのにね」


 ファルの言葉に驚きの表情をする。発現どころか顕現の段階に至っているということはそれだけ稀有なことなのだ。稀有どころかツチノコを見つけるくらいに都市伝説となっている。


(うん、まぁ、顕現はっちゃぁ終えているけど……世知辛いねぇ)


 なんだか苦笑いを浮かべたファルを同情の目で見るリールに食堂内では疑問の雰囲気が漂うのだった。




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 機材トラブルで少し遅れました。

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