【スサノオ・ゲントク】登場
「おい、ちびっ子。ここは【サルタ】の新入隊式と訓練場だぞ、まさか新入隊員じゃないよな」
おいおい、望……そんなこと言ったら、絡まれるぞ。コイツは小さいが、武術を学んでた。立ち振る舞いから、こっちでもかなりやってるんじゃないか?いや、ここは【ヤヲヨロズ】だ、あっちの世界よりきっと……
「痛っ!イタタ……ちょっ……痛ぇ……」
ほらな、あっという間に腕を取られ、不審者撃退とばかりに押さえられた。望なんて2メートル近い巨躯なのに150センチにも満たない身体でよくやるよ。
「人を見た目で判断するなんて低俗ですね!」
「イタタ……離せ、ちびっ子!」
長い髪を一束にまとめ、いかにも戦乙女とばかりに、望を圧倒する少女。
「
「ふ〜ん、アタシは
人を見た目で判断するのは低俗じゃなかったか?
「いろいろ事情があって、志願したんですよ」
「まぁ、「減税」になるからね。アンタみたいなのでも戦場に駆り出されるのは、しょうがないか」
こういう言い方するところも、そのまんまだな。知り合いを見かけるとホッとするが、なるべく関わらないようにしよう。
「聞き捨てなりませんね!旭さんに対して、「アンタみたい」とは何ですか。この方は「クロズミ領を救った英雄」ですよ」
あ……ちょっと……悠さん?そういうこと言うと、この人はね……
「英雄?クロズミ領の病って「阿木隊長」が尽力したんでしょ?」
阿木先生、俺のためにいろいろ根回しをしてくれてたんだな。ありがたい、極力目立ちたくないと言っておいてよかった。
「ちびっ子は、何も知らねぇんだな。旭のアイデアと「水の
「だぁ〜!っとそろそろ始まるんじゃないか?新入隊式が!みんな、整列だぞ」
チラッと美月のほうを見ると、訝しんだ表情でこっちを見ている。「水の皇?」と小声で呟くのが聞こえたが、無視をすることにした。これ以上関わると、ろくなことがないのは、わかっている。
しばらく待つと、空気が一変した。300人ほど集まった新人の【サルタ】達の視線は、一人の男に注目している。ついに来た!【
ヒリつく空気の中、あの玄徳先生よりもさらに凄みを増した男が壇上に立つ。
「若きサルタ達よ、この激化した領土戦争のなか、軍への志願を感謝する!君達はこのクロズミ領の最前線で戦うという大事な任務に就く。たいへん危険な任務だが、クロズミ領の家族を守るため、誇りを持って戦って欲しい。この【スサノオ・ゲントク】もそんな君達を誇りに思う!……もちろん戦果を挙げた者には、報酬もある!君達には、ぜひ【サルタ】から【ヤチホコ】へと目指し、豊かになるという夢を持って欲しい!……君達の思いがこのクロズミ領を守るのだ!」
「「「オォォ」」」
すごい……完璧だ。これだけ気持ちを煽り、一気にみんなの心を掴んだ……。
玄徳先生は「弓術」以外には興味を示さなかったが、こっちでは完全に「一国の王」か……こりゃ、手柄でも立てない限り近付くのは無理かな。
今日はこのまま、新人サルタの実力を見るようだ。模擬戦を行うみたいで、数カ所にグループ分けして、一対一で戦う……はっきりいって俺が一番弱いだろう。どうしよう……授業で少し剣道をかじったくらいでケンカもまともにしたことがない。
【ヤヲヨロズ】の人間は、健康的ではないからスタミナは無いだろう。だがここ最近の水のお陰か、少し肌ツヤがいいように思える。現代人の俺よりは筋力や闘争本能みたいなのは間違いなくあるから、模擬戦なんてするとボコボコにされそうだ。
ここは悠さんに模擬戦の相手をしてもらって手加減してもらおう。うん、それが一番いい。
ということで、「悠さ……」
「悠!どっちが旭の一番位に相応しいか勝負しようじゃないか!」
「ほぅ、いいだろう。望、かかって来い!」
くっ……こっちは取り込み中だったか。しょうがない、女の子を相手にするのは気が引けるが、朱里に頼むしかないな。「あか……」
「アンタ……アタシとやるつもり?怪我じゃ済まないかもよ」
「ウチは朱里っていうの!あの
朱里……美月と模擬戦やるのか……。俺は?
「よぉ〜!結城旭!待ってたぜ。お前の相手はオレだ!」
辺りがザワつく。まぁ、こうなるよね。でもいいのか?新人【サルタ】の模擬戦に【ヤチホコ】が参加して……俺のことを公開処刑したいのはわかるが、この周りのザワつきを見れば、この事が当たり前じゃないことは明確だ。
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