兄として...

「レイメイ?……もうそんな時間が経ったんだ」

「君は、本当に無茶をするね」


「影沼のこと?」

「相手は【ヤチホコ】だろう?あの武力や知力に長けた者だけがなれるといわれた」


「【ヤチホコ】ってそんなに偉いの?」

「そうだね、少なくとも戦果を挙げてるという点で、【スサノオ】からは、重宝されているだろうね」


「ふ〜ん、そっかぁ……俺……レイメイに謝らないといけないことがある」

「うん?どうした?」


「一人暮らしの件……しばらく待って欲しい」


「なんだ、その事か。わかってるよ」


「なんだじゃないよ、俺は真剣だよ!軍に志願したんだ、始めは【サルタ】だけど……【ヤチホコ】目指すよ!そうしたら、きっとはるさんも守れるし、安心して一人暮らし出来る」


「ふっ……どうせなら【スサノオ】を目指したらどうだ?」

「――え?つまり……自分だけの「領土」を持つ、ってことだよね」

「そうだね、でも君が決めることだ。自由に生きたらいい」


「一国のあるじってことか……俺になれるかな?」

「君は、優しいからね。主には向いていないかも」


「でも、レイメイが過ごしやすい国を造る、ってことならいい目標だよね」

「……ふっ……どこまでも君だな」


「限りある命、生きてみたいと思う……限界まで」

「いい言葉だ」


「でしょ!」


 目標が増えたな……晴さんを救う(これは、まだ完全でないはずだ)、玄徳先生に会う、一人暮らししてレイメイと住む、「ヤチホコ」になる、いつか自分の領土を持ち国を造る、つまり「スサノオ」だな。


 旭は、寝室に寝ていた。気を失って夕刻まで眠っていたのだ。咲子や晴の姿もない、晴はおそらく旭の代わりに阿木の手伝いに出てるのだろう。


 咲子は、買い物にでも出ているのか、家にいる雰囲気もなかった。吾郎は仕事だろうか、養子の手続きにでも行っているのか、それはわからない。


 ただ、今は、レイメイと二人だけなんだと感覚的に理解していた。


 レイメイが様子を診てくれていたんだろう……痛っ……肋骨が折れてるな、影沼め……でもちょうど【薄明の刻】か……試してみる価値はある。


 魔法なんだ。出来ないことはないだろう……


 手の平が温かい、うっすらと白く光る右手を、肋骨が折れているであろう脇腹へともっていく。


 すごい……【マジックアワー】って、こんな事も出来るんだ。痛みや熱が引いていく。


「……君……それは!……ふふ、とんでもないね。それって【浄化】と同等のチカラだよ。【治癒・いち】……極めれば「浄化」を超える神のチカラ」


「じゃあ、レイメイが怪我したときのためにも極めないとね」


「私には……必要がない……かな」


「――?それって、どういう」


 ――!人の気配、「レイメイ、誰か来た」と言う前に、すでに姿は無い。レイメイは、相変わらず誰とも会おうとしない……あきらかに俺以外の人間を避けている。


治癒の必要のない人間……か。


「旭さん?起きてましたか」

「晴さん、阿木先生の手伝いありがとうね。こっちに来てくれる?」


「旭さんにはお見通しですか。阿木先生のところに行っていたこと、よく分かりましたね」


 いちおう、【浄化】をしておこう。何が、晴さんを「死」に結びつけるか分からない。この異世界は、きっとただの異世界じゃない。


 吾郎さんを救うことが出来たんだ、晴さんの不安要素を取り除けばきっと、前の世界とは違う未来が待っている。


 旭は、晴の頭に手をのせた。


「――え?」


「ごめん少しじっとしててね」


「はっ……はい」


 【浄化】はかなり使いこなしてる……範囲的にしなくても、こうやって一人だけを浄化することも可能なはずだ。


 これだと、俺自身も疲れないし【浄化・市】を使うまでもない。「浄化・市」はけっこう派手だから、晴さんをびっくりさせちゃうしね。


「あ……あの、旭さん、これは?」


 上目遣いでそう言う晴に、ドキッとした旭は、ちょっと距離が近すぎたかな?と思いつつも、なるべく平気な顔で晴を見る。


 頬が照れたように赤く染まり俯く晴を、ついつい、あの「晴」と重ねて見てしまう。


「――えっと……これはね、俺が住んでたところで、「ありがとう」って感謝の意味があるんだ」


 咄嗟に言い訳のようなことを言ってしまったが、間違ってはないよね。

 

 「ヨシヨシ」とも言うけど。だが、まぁ、これは言わなくてもいいか。とりあえず、手伝ってくれてる医療従事者にも、今度やっておこう。


「旭さん、お礼を言うのはこちらのほうです。わたしのため、暁月家のために……旭さんが暁月家に入ってくれるなんて……父も母も泣いて喜んでいました。でも……そのせいで危険な目に……」


「大丈夫だよ。俺はこう見えてけっこう丈夫なほうだから」


 ただ治癒があるだけだけどね。あとは貧弱な高校生。


「本当にありがとうございます!それと、父が言っていましたが、姓は「結城」のままで大丈夫だそうです」


「そうなんだ、了解!でもこれで、晴さんも自由な「恋愛」が出来るね!」


「――!あ……そ……そうですよね……考えたこともなかったです。自由な恋愛……」


「まぁ、変なヤツだと俺が許さないけどね!兄として」

 

 影沼に、ボコボコにされちゃった俺が、言うのもなんだけど……


「兄として……ですよね……」


「ん?あれ?そうか……同い年だけど俺のほうが誕生日遅いな……弟として、だった?」


「……いえ、そういうことではありません」


 あ……この顔はちょっと怒ってるやつ……


「旭さんは、わたしのことよく知ってるようなのに……わたしは旭さんのことを知りません……知りたいです」


「そっそうだよね……でも、これから一緒に暮らすんだから」


「はい、よろしくお願いします!旭兄さま」


「――!旭兄さま……」


 いい……いいね……晴さんの兄か……まぁ、前から晴と兄弟みたいなもんだったしな。


「よろしくね、ハル」


「ではまず、誕生日から」


「お……おう」

 

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