【アサヒノカミ】
集会場の中……。これは……なんてことだ。
コロナも大変だったが、そんなもんじゃない。これだけの人が苦しんでいる姿を同時に見ることもなかった。うっ……異臭……俺は……俺は、なんて恵まれた環境にいたんだろう……
救いたい……。
旭は、横たわる人の間を縫う様に、集会場の真ん中に立つ。
【マジックアワー】……【浄化・航】!
「航」を意識したわけではない。
ただ、凄惨な現状をどうにかしたい。
その思いが【マジックアワー】の
キラキラと光るシャボン玉が、意識も朦朧とした人々を優しく包んでいく。
おそらくこの辺り一帯も、美しく光るシャボン玉のようなものが下から上へと無数に舞っているだろう。
ああ……これは目立つ。これじゃあまるで【神の所業】のように、感じた者もいたのではないだろうか……薄れゆく意識のなか、そう思いながら、その場に横になった。
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三日後……旭は、暁月家に居候中だ。午前中は、阿木の助手として働いている。
「旭くん、重症者はかなり減ってきたようです」
「そうですか、それは朗報ですね。でも感染者は引き続き隔離し、療養していきましょう。水の汚染もかなり落ち着いてきましたから」
「そうですね。それもこれも、旭くんのおかげですね」
「……いえ、阿木先生に信用してもらえてよかったです。」
「それはもう、この街のほとんどが旭くんを頼ってますよ。あの【ミツハノシズク様】の申し子だってね」
「ちょっとやめてください。俺は、そんな人知らないんですよ。阿木先生には、説明したでしょう。俺はこの世界の人間じゃないって」
「う〜ん、それなんですよね。たしかに旭くんは温室育ちって感じですが、「水の皇」はこの【ヤヲヨロズ】では【ミツハノシズク様】しか、使えないんですよ」
「まぁ、俺もこっちに来て使えるようになりましたからね……あれ?じゃあ【ミツハノシズク様】って、もとは俺の世界の人だったりして!」
「たしかに、それもあり得るかもしれませんね……」
旭は、阿木の診療所でそんな雑談をしていた。すると、突然、ドスドスと扉を開けて入って来る音がする。
「旭〜!いるかぁ〜!?」
「ちょっと、
「お前も似たようなもんだろ、
「
「……無理」
旭は、苦笑いで阿木を見る。
阿木の表情から、「すみませんね」と言葉にはしないが、そう言ったのだろうと感じとった旭は観念し、「ここだよ」と返事をした。
「ここかぁ!」
ドンっと乱暴に開けられた扉から三人の男女と顔を合わせる旭は、ハァ〜とため息をついた。望はご存知の通り、初めて会った時に、俺を殴ったヤツ。
【浄化】により家族を救った俺を気に入ったようで懐いてしまった。懐いたといっても同い年なので友人ということになるのか。
【浄化】は見られてないが「水の皇」が聖なる水みたいに話が進み、初めは崇めるような雰囲気だったが、タメ口でいいと言うと、あっさり受け入れ、今ではこんな感じだ。素直というか、なんというか……
「どしたの?三人揃って」
「旭、聞いてくれオヤジとお袋が仕事を始めた。お前の「水」のおかげだ!ありがとう!」
「え?もう、働いてるの?大丈夫?」
コロナでも一週間から五日くらい安静にしたほうがいいのに、大丈夫なのか?たった三日しか経ってないのに……
「まぁ、万全ではないけどな。だが、「税」も納めないといけないし、働かないとな!」
「そっかぁ、大変だな……」
そういえば、俺にも「税」がかかるんじゃないか?まぁ、阿木先生から給料もらえるし……でも、いずれは自立しないといけないし……考えないといけないな。
「ウチも、旭サマに助けてもらったけど、もうバッチリ動けるよ!」
この子は、集会場に集められ重症だった、朱里だ。歳は一つ下で、ショートカットの活発な女の子だ。俺のことを「旭サマ」って呼んでる。タメ口でいいと言ったが、名前だけは、そう呼ばれるようになってしまった。
「朱里は、若いからね。回復も早いよ」
「旭サマ、聞いて!ウチら志願して軍に入ることにしたんだ!」
「え?軍に……つまり【サルタ】になるってこと?」
晴さんに聞いた話では、軍に入ると【サルタ】と呼ばれるようになる。それは、つまり、「一般兵」だ。領地争いの最前線に立たなければならない。命の危険もあるということ……。
「はい、旭さん!我々三人、この「クロズミ領」を守るため、命をかけて志願しました!」
「悠さん……妹さんは、いいの?」
この人は
「おかげさまで、かなり元気になりました。旭さんには、感謝しかありません!」
「固いなぁ、悠さんは。それにしても志願しないといけなかったの?危険なんでしょう?」
旭は、三人に疑問を感じた。せっかく街が活気づいてきたのに、わざわざ志願する必要があるのかと。
「旭は、知らないのか?「増税」のこと」
「増税?」
望の言葉になんとなく話が見えてきた旭は、黙って聞いていた阿木のほうを見た。
「旭くんは、ここに来たばかりだから、知らないでしょう。【スサノオ・ゲントク様】は「増税」により払えない家庭は、13歳以上の子供を【サルタ】に志願させれば、「税」を今まで通りに減税すると言っているのです」
「――なっ!それって、ほぼ強制兵役じゃないですか!?後付けにもほどある。誰か直訴しないんですか?」
「そういう考えになるのは、外から来た
「そんなの……洗脳じゃないですか……」
「旭サマ、ウチらにとっては当たり前なんだよ。【スサノオ・ゲントク様】が言うことは絶対なんだよ」
「そうだぞ、旭。むしろ出世も狙えるんだ!【ヤチホコ】にでもなれたら家族に楽をさせてやれる」
「朱里……望……」
「私は、旭さんのためなら命を捨てることも
「悠さん、固いなぁ……俺に命をかけないで、誰かを守るなら妹の
「ハッ!旭さんが、そうおっしゃっるのならば!」
「固ぁ〜!」
旭が、悠の敬礼に申し訳なさそうにしていると、何やら望と朱里が考え込んでいる。
「でもたしかに……旭サマは【スサノオ・ゲントク様】よりも、最上位の【五皇様】の申し子よ!旭サマに仕えるべきなんじゃない?」
「ムム、たしかに!【ヤヲヨロズ】の最上位の申し子……比べようもない神!」
「おい、旭さんは私が始めに仕えているのだ!一番位はこの私だぞ!【アサヒノカミ・一番位「悠」】そう名乗る」
「何〜!きたねぇぞ!勝負だ、悠!」
「無理だ。お前は【アサヒノカミ・二番位「望」】で決まりだ」
「そっかぁ〜、じゃあウチは【アサヒノカミ・三番位「朱里」】だね!」
おいおい、勘弁してくれ……なんだよ「アサヒノカミ」って、神様になったら俺のスローライフはどうなるんだ。面倒なことはやめてくれ。
「旭くん、これだけ、みんなに好かれて幸せ者じゃないですか。よかったですね」
「いやいや、阿木先生……少し面白がってるでしょ?」
「いえ、かなり、面白がっています」
あっ、はい、ですよね。
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