幼馴染と救われる思い

 何を考えてるんだ。異世界じゃないなんて、そんなはずはない。


レイメイさんが言っていた「異世界転移おめでとう」と……そうだよ、きっと晴も転移したんだな。

 

 生きててくれて良かった……記憶は無いのか?俺を見ても知らないようだ。


 いや、どうかしてる、辻褄が合わない。俺は確かに見たんだ、あっちの世界で晴の遺体を……。


 あさひは、はるから目が離せない。


 転んだことも気になる、どこか怪我をしてないか。旭は晴の身体を隅々まで確認する。触れてはいない、ただ目視するだけだ。


「あ……あの、すごく心配してくれているのは分かるんですが……あまり見られると恥ずかしいです」


「――!ごめん、俺のせいで怪我でもしてないか心配で……痛いところとかはない?立てるかな?手を貸そうか?」


「ふふふ、大丈夫ですよ。優しい方なんですね。見たところ、高貴な方のようですが、この【クロズミ領】の方ではないのでしょう?」


「え?高貴?」


 この格好のことかな、確かにブレザーの制服って、知らない人からすると、高貴な感じに見えるかも。


 知らない人か……


「そっそうだね。従者と逸れてしまって、ちょっと道に迷っていたんだ。街まで行きたいんだけど……」


「そうだったんですね。ではご案内しますよ、わたしも少し出ていただけですので、戻るところです」

 

「ありがとう!晴……さん」


 旭にはまだ整理出来ていない、気持ちの整理だ。隣を歩く女の子が名前も姿も「暁月あかつきはる」であることに違和感を感じている。


 違和感?いや、安堵かな……この晴も、あの晴でいて欲しい。ここで幸せなら、いくらか救われる。


 自分の心が救われる。そう考えると自然と涙が流れてきた。勝手だな、重ね合わせるなんて。


 自分が生きていくためにどこかで理由をつけようとする。【ヤヲヨロズ】という異世界で、のうのうと生きていくために、自分自身のトラウマをこの子に押し付けるなんて、最低だ。


 偶然、同じ顔なだけ


 偶然、同じ声なだけ


 偶然、同じ名前なだけ


 偶然、雰囲気も似てるだけ……


「結城さん?大丈夫ですか、涙が……」


「だぁ!ごめん、カッコ悪いね。えっと、従者がね……大丈夫かなぁって、考えてたんだ」

 

「そうですか……それは心配ですね。よほど大切な方なんでしょう。羨ましいですね、結城さんのような人にそれだけ想っていただけるなんて……」


「いやいや、俺はそんな大層な人物じゃないよ……あっそうだ!【ヤヲヨロズ】について教えて欲しいんだけど。俺は……その……【ヤヲヨロズ】の外から来てるから」


「え?【ヤヲヨロズ】の外?……」


 やばい、無いのか?この世界は【ヤヲヨロズ】という地球なのか?


 てっきり日本のような国をイメージしていたが……だったら俺は宇宙人ということになり、実験体として研究所に送り込まれ、そこの博士と仲良くなることで、なんとかその場を乗り切り、友情の証として渡したブレスレットが何らかのチカラを発動し、侵略してきた別の宇宙人の対抗策として……


「じゃあ外国の方なんですね!」


 いや、やっぱり国なんかぁい!まぎらわしい間をあけるんじゃない。お前は昔からちょっとテンポが……旭は、自分を落ち着かせようと、一旦深呼吸する。


「晴さん、【マジックアワー】って聞いたことありますか?」


「――?初めて聞きました。何でしょう?お魚ですか」


「そうそう、マアジと間違えやすいから気をつけて、ちょっと肉厚だけど味はマアジのほうが美味しいって言われてるよね。見分け方知ってる?尾ビレの近くに小さなヒレが付いてるほうが……ってそれ、マルアジだよね。文字数も語呂も全然違うよ」


「ふふふ、結城さんって物知りですね」


 懐かしい……こんなしょうもないノリ突っ込みにも対応するなんて、こっちの晴も純粋なんだな。


 だが、とりあえず【マジックアワー】は一般的ではないんだな。たしかに、レイメイさんは「神にも等しい」と言っていた。


 仮に、俺が【マジックアワー】を使えるとして、人前ではあまり見せないほうがいいのかもしれない。崇められても困るし、命を狙われたりなんてことも予想できる。


 となると、レイメイさんは、神か?異世界の案内人と言っていたから人外ではあるんだろう。今度また会えたら聞いてみよう。


「結城さんは、外国の【ヤチホコ】様ですか?それとも【スサノオ】様ですか?すごく博識な雰囲気でいらっしゃるので」


「え?」


 知らない単語が出てきたな。う〜ん、ここは少し乗っかってみてもいいかもな、いちおう外国人だし。


 旭は慎重に言葉を選びつつ、この世界を知ろうと試みる。決して晴を信じていないわけではないが、【晴】という存在が、自分の中でまだ消化しきれてないのだ。

 

「そうですね、【ヤヲヨロズ】ではどうかは分かりませんが、僕は向こうでは、それなりの立場にいると思っています。お忍びで来てますので他言は控えてもらいたいのですが」


「やはりそうですか!では結城様とお呼びしたほうがいいですね。わたしのような者が、結城さんなんてお呼びして、申し訳ございません」


「いえいえ、むしろ隠していたいので「あさひ」と呼んでください。敬語も極力控えてもらうとありがたいです。僕も喋りやすいですし」


「そ……そうですか?……では旭……さん、わたしのほうにも敬語を使わないでください」

 

「よかった。ありがとう、晴さん」


「はい、では旭さんの立場は、内緒ということで」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「あっちゃん!どうだった、合格してた?それとも……」

「いや、してるだろ。どっちかというと晴のほうが心配なんだが」

「ふふふ、じゃあ4月から同じ高校だね!同じクラスだといいね」

 

「ふぅ……良かった。先生としては生徒の結果が恐ろしくて、顔を見るまで不安でいっぱいだったよ」


「いや〜、ホントに感謝してます。あっちゃんが勉強教えてくれなかったら、わたし、絶対無理だったよ」

 

「無理して同じ高校受けなくても良かったのに……」


「えぇ!だって、あっちゃんの全国大会優勝するところ応援したいし……」

 

「そんな理由だったの?」

「そんなって……ひどいなぁ、一緒に頑張ってきたのに」


「一緒に頑張ってきたって……晴は、辞めただろ。けっこう早く」

 

「才能ないからね。でも、あっちゃんはすごい!」

「わりとマイナー競技だからね。それに高校では、初めてだから、馴染めるかどうか……」

 

「でもあの鎮西ちんぜい流の【鎮西ちんぜい玄徳】の弟子だもんね!すぐにエースだよ。」


「別に弟子じゃないよ。教えてもらってただけ」

 

「それを弟子って言うんだよ。頑張ってね!【弓術】。あっ、でも部活では「弓道」か。早く、あっちゃんの綺麗な射技しゃぎが見たいなぁ!神事しんじの時のあっちゃん、カッコよかったなぁ」

 

「やめて、恥ずかしいから……晴、あんまり言うなよ。玄徳先生に教えてもらってたこと……目立ちたくないし」


「うん、じゃあ、内緒ということで」 


♦︎♢♦︎♢♦︎♢

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