第34話 五百年

「ねぇ、師匠って不死?」


 まだブツブツ言ってる師匠に話しかける。


「あーん? まぁ不死っちゃあ不死だな」


「腕がもげたら?」


「まぁ生えてくるわな」


「心臓が吹っ飛ばされたら?」


「再生するわな」


「頭のてっぺんからつま先まで潰されたら?」


「そりゃ、それをなかったことにするわな」


「ハハ。師匠のスキルって何?」


「火操作」


 時間を操り、人のイメージを実体として生み出し、不死だの過去改変だのできるっていうのに元々のスキルは火操作とか言ってるんだから、スキル名なんて大して関係ない。どうせこのレベルの人たちはみんな似たようなことができるのだろう。


「ま、そういうこったな。ここまで来ると何でもアリアリになってくる。が、スキル名ってのは大事なもんだ。後にも先にも一個しかない自分の核となるもんだからなー。そしてそれだけは負けちゃいけねぇ、ブレちゃいけねぇ。お、師匠っぽいことを言った気がする」


「はいはい」


「いや、おい、もっと師匠に敬意を、だな──」


 なんて会話をしながら、まさか修行が五百年以上続くとは思わなかった。




「おぉ、カイ。お前五百年ぽっちでよく俺とそれなりに打ち合えるようになったなぁ~。よほど良い師匠を持ったんだな、うんうん」


「僕は呆れてるよ。結局理由も言わないまま、まさか五百年も監禁されて修行させられるとは思っていなかったからね」


「ハッハッハ。五百年とか一瞬だからなぁ」


「師匠って何歳だっけ?」


「お前今までおねしょした数を数えてるかぁ?」


「少なくともこの世界に来てからはゼロだよ」


「ッフ。つまりそういうことだ」


「あー、はいはい。流石師匠」


「だべぇ? ガハハハハ」


 師匠は見た目こそ四十手前くらいのおっさんだが、下手したら何万年も生きていそうだ。つまり耄碌ジジィである。ボケ老人には優しくしないといけないため、大体の会話は流石師匠で終わる。というか終わらせる。


「さて、カイ。そろそろ戻らなきゃいけねぇが、どうだ?」


「あー……、うん」


「んだよ。ビビってんのか?」


 いや、違う。こっちの世界に来てから三ヶ月ほどで師匠に出会い、そこから五百年、この地獄みたいな場所で地獄のような時間を過ごしてきた。肉体年齢は年を重ねていないが、頭の中は五百年経ってしまっている。ちょっと何の目的で何をしていたのかを忘れかけているだけだ。


「カカ。耄碌ジジィかよ」


「……」


 最低でも500歳は超えたことは地味にショックなので、目と耳を閉じておく。


「ホムラ。そろそろ解除されるわね」


「ふむ。相変わらずおっさんはイジワルだねぇ。おい、カイ、一時間だ。分かったな?」


「はいはい。分からないけど分かったよ」


 師匠は意思疎通というものをするつもりがない。ほぼほぼ一方的だ。もう慣れたので、返事だけ適当に返す。


「よろしい。んじゃ、行きますか」


 師匠とベルさんが頷き合うと、理界が解けていった──。


「ぷはー。やっぱ娑婆の空気はうめぇなぁ~。ガハハハ」


 ガハハハと笑う師匠はさておき、元の世界は夜なのだろうか、異様に暗い。かと思えば、一点──上空には燦然と輝く球体。

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