第33話 涅槃の一槍
「目がぁ、目がぁ、見えないっ。どこっ、私の殺すべき相手はどこぉぉおっ」
野太くなった声。装備は直剣ではなくこん棒。目は潰れており、体はざっと三倍ほどに膨れ上がっている。がむしゃらに振り回しているこん棒の威力を見るに、理力の桁数は随分上がったようだ。
「さぁ、デスビームとかいうキザな技はこれで使えないぞー。暴れくるうゴリラメリル君を倒してみたまえ」
デスビーム。直訳で死線。視線と掛けているのだろうか。師匠はドヤ顔だ。普通にウザいので聞き流す。
「見えないけど、見えたぁぁぁあ!!」
そんなやり取りをしている間にゴリラメリルはどうやら目がなくても見えるようになったみたいだ。一直線にこちらへ向かって、こん棒を振り下ろしてくる。それをカオスとラベッジで受け止めようとして──潰された。
「無茶苦茶な速度だね」
「なんで生きてるのよぉぉおお!!」
『知能までゴリラレベルだな』
『あら、ゴリラはかなり賢いんですよ?』
復元に掛かる時間は百分の一秒ほどまで縮まっていた。まだまだ遅いと感じるが、三秒近く掛かっていたことを考えればかなりの進歩だ。
「まさか、三秒が本当にラーメン三杯行けそうなほど長く感じるようになるとはね」
「ラーメンたべりゅうううう!!」
こん棒が振るわれる。しゃがんでかわしたところで衝撃波で体が粉々になった。
「受け止めるもダメ。避けるもダメ。はぁー、めんどくさい」
「なんで生きてるのよぉぉおお」
ゴリラメリルが地団太を踏む。地獄が揺れた。
「僕の方からも仕掛けさせてもらうよ」
全身を黒いオーラが纏う。
「ほぅ。
「いえ。ご自身で辿り着きましたよ」
「なるほど。ま、俺の弟子だからな、カハハハハ」
いや、おっさんは寝てただけだけど。
「私もぉぉおおお」
ゴリラメリルからも金色のオーラが吹き出し、しゅいんしゅいん言っている。
「ハァァッ!!」
「フゥゥンッ!!」
死を振りまきながらカオスとラベッジを振るう。対してゴリラメリルは無理やり空気と音の壁を破壊しながらこん棒を振るってくる。──激突。金と黒のオーラがスパークし──。
「わ、私のこん棒ぅぅぅうう」
「悪いね。こん棒殺し切ったよ」
その衝撃の刹那に何十回か死んでは復元しながらもこん棒に死を与える。
「いいもんいいもん。まだまだあるもんんんんっ!!」
ゴリラメリルは口の中からこん棒をひきずり出した。流石にやりすぎだと思い、師匠を睨んでおく。
「うわっ、やめろっ、デスビームはやめろっ」
やってない。が、やっても良かったな、と思う。涎ダラダラで、ベトベトのこん棒を握りしめてハァハァ言ってるゴリラなメリルを見て、いたたまれない気持ちが大きくなる。
「せめて一瞬で殺してあげるよ」
「ウホウホぉぉぉおお!!」
ほら、もうウホウホ言っちゃってんじゃん。
「カオス、ラベッジ」
『おうよ』
『はい』
何も言わずとも通じ合う。二人を宙へと放る──二本の短剣は捩じり合いながら引き延ばされていき、手元に収まる時には死を凝縮した禍々しい一槍のヤリに。
「うげぇ。随分えぐい槍だねぇ。あいつらにそんな機能あったっけ?」
「私は
「ふーん。弟子一号やるじゃん」
何やら師匠たちが喋っているが、それどころではない。早く投げないと気が狂ってしまう。
「い、い、いやっ、な、なん、なんなのぞれぇぇ!! きぼぢわるぃいいいい」
「消しとべ。『
振りかぶり、投擲する、ただそれだけ。黒閃が真っすぐ走り、メリルを文字通り消し飛ばし、地獄の果てに突き刺さる。
「うっわー。マジ? 俺の理界にちょっと亀裂入ったんだけど。何それ。弟子一号の理力じゃ絶対ヒビなんか入らない筈なのに。……どんなチート技よ。え、つーかおっさんの槍に似てね」
師匠がぶつぶつ言っているが、こっちは限界なので倒れ込む。この技を使うと死ぬより疲れる。ごっそりと大事なものが抜け落ちるような。
『戻ったぜ、相棒』
『お疲れ様です。マスター』
「あぁ、二人ともおかえり」
寝転んでる僕の両手に二人が帰ってきた。あんな疲れる大技を使わずとも短剣モードで倒し切れればいいのだが、理力がおかしな数値になってくると耐久力も何でもありになるので、大技に頼らざるを得ない。
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