第31話 修行
「分かればよろしい。はい、じゃあまず俺のことは師匠と呼ぶように。おーけー?」
「……ホムラ」
ここで素直に従うのは癪なので、抵抗してみる。
「カカカカ。いいねぇ。あれほどの力の差を見て、まだ虚勢が張れるのは誉めてやる。が、俺が決めたことは
先ほどの使徒のスキル同様、世界が一瞬で塗り替わる。ホムラの言葉通りまるで地獄のようだ。立っているだけでも息苦しくなる。
「ここは俺が理を決められる世界だ。例えば痛覚を再現。ボウズは自分の理の中で痛みを消し去ったが、俺が無理やりそれを復活させる。んで、ホイ」
トントンと肩に担いでいた刀で薙ぐ。右腕が斬り落とされた。
「グァァァアッ」
あまりの痛さに叫びそうになるのを歯を食いしばって耐える。
「ほい。痛覚再現解除」
次の瞬間、痛みが消え去った。久しぶりに味わう痛みは、消えた後も余韻が残っているように感じられた。
「はい。痛みを人質に取ったところで、リピートアフターミー。師匠」
「……師匠」
「はい、良く出来ました。じゃあ弟子一号くん。ちみをこれから最低でも使徒を倒せるくらいになるまで鍛え上げます。理力の目標はとりあえず一万くらいかなぁ」
一万? 既に一億を超えているんだけど。まさか、師匠は自分より理力が全然低いのか?
「ちなみに師匠の理力を聞いても?」
「ハッハッハ。ビビれ。十万を超えている」
師匠は両手をパーにしてドヤ顔だ。これはもしやこちらの理を押し通せる、か?
「ん? 弟子一号、急にやる気満々な目をしてどうしたと言うのだね」
「師匠、つまらないことを聞くけど、師匠は嘘つきかな?」
「うんにゃ。俺はつまらねぇ嘘はつかねぇよ」
「なるほど。おかしなことに僕の理力は一億を超えてるんだよ、ねっ!!」
『あ、おい』
『マスター、やめた方が──』
そして──。
「気が済んだかぁー?」
まったく思い通りになどならなかった。明らかに理力の差を感じる。こちらの理が通る気が一ミリもしない。
「まぁいいよ。師匠が嘘をついたことだけは証明されたね」
となると結論はそういうことだ。理力詐称。過少申告。
「嘘なもんか。ほれ、これ証拠な」
師匠が画面バキバキのスマホを見せてくる。その画面には──。
「3.2e+103175……」
「あぁ、十万桁を越えたとこだな」
「ハァ……」
深いため息をつく。そりゃ手も足も出ないわけだ。その数え方で言えば僕の理力はまだ9だ。9対十万。勝ち目など兆に一つないだろう。
「嘘はついてねぇぞー。俺たちの理力の数え方はこれが常識だからな。逆に言えばボウズの数え方している内は理力の理の字も使えてねぇよ」
「さいですか」
「うむ。というわけでまずは基礎体力と基礎理力を上げるために戦って、死んで、戦って、死にたまえ。相手はメリル君一号だ。かもんっ」
師匠が指をパチンと鳴らすと、つい先ほど見たままのアホピンク頭が現れた。
「メリル君一号の性能は大体二十桁くらいだ。これ以上は下げれん、すまんな。えーと、弟子一号の理力が九桁だから、あー、なんだ、誤差みたいなもんだろ」
師匠はめんどくさくなったようだ。ちなみに全然誤差じゃない。十桁以上違うということは、ウン十億倍の差があるということ。
「ねー。もういい? 早くやろうよー。厨二病の痛いヤツ見てると恥ずかしくて殺したくなるんだよねー」
「ハッハッハー、それは共感性羞恥というやつだね、メリル君一号。いいぞ、どんどん殺しちゃいなさい」
「指図すんなジジィ」
「何をぅ、俺が作り出したイメージのくせに生意気な」
無駄に再現性が高いせいか、普通にメリルは師匠に逆らっていた。
「ホムラ、何を遊んでいるんですか?」
「む。いかんいかん。弟子一号のために折角作ったメリル君を消し炭にするところだった」
……こんなんで本当に大丈夫なのだろうか。
「さて、じゃあ弟子一号、修行に励みたまえ。この地獄我波羅にいる間は、時間の流れは外の空間の一万分の一くらいだ。多分、確か。つまり沢山時間を掛けても、ちょっとしか経ってないってことだから安心したまえ」
「師匠、雑な説明ありがとう」
「うむ」
師匠は満足気に頷いた。嫌味のつもりだったんだけどね。
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