第29話 殺戮者
それから二週間が経った。これといったイベントは起こらず、双短剣術の訓練に明け暮れ、たまに道路で寝転び、プレイヤーを釣っては殺してと言った日々だ。ちなみに、どいつもこいつも遠距離特化で安全に人を殺してこようとするチキンプレイヤーばかりであった。
そんなこんなでフェーズ2もいよいよ終わり。今日からはフェーズ3だ。フィールドは直径2.1㎞の円となる。プレイヤー数は1.4万人ほどだ。
僕はエリアの縮小とともに中心へと向かい、そしてフェーズ3の外縁に着いたところでついに出会ってしまった。
「
青い瞳、サラサラのプラチナヘアー。背中に一目でわかる業物の大剣を背負ったイケメン君がそこにはいた。ちなみにこの何週間で僕は不死の吸血鬼とかいう厨二病な二つ名が生まれてしまった。死にたい。
「ふー、ついに出会っちゃったか。
一見、蚊も殺しそうにない優男だが、その目は温度を持たず、死の気配が濃密に纏わりついている。
「
使徒様とかいう痛々しい名前のイケメン君の横には取り巻きがいた。ピンク頭のアホそうな女だ。いや、あれは確実にアホだろう。だが、そのアホな女も
「で、一応聞くけど跪いたら見逃してくれるのかな?」
「答えはノーよ! さぁ無礼なヴァンパイアの劣等種もどきめ、跪きなさいっ!」
答えがノーであるなら跪く必要などない。跪くだけ損だ。まぁ、イエスだったとしても跪かないけどね。
『……ククク。よぉババア、久しぶりだなァ』
『おや、豆粒みたいに小さいから見えなかったよ』
『どうやら老眼がかなりお進みのようですね、エクス』
そう言えばカオスとラベッジはエクスカリバーと知り合いだと言っていた。
「さて、旧知の再会も終わった。メリル、そこの下等なのを狩っておけ」
「畏まりましたっ!」
使徒様とやらが仕掛けてこなかったのはどうやらインテリジェンスウェポン同士の挨拶を済ますのを待つためだったらしい。
『……相棒、逃げろ』
『マスター、今は分が悪いです』
『カカカカ。貧弱な使い手を持つと苦労するねぇ』
使徒の命令を受けてピンク頭の気配が変わった。その殺気を浴びただけで殺されることが確信できてしまう。
「……こりゃ勝てそうにないかな」
カオスとラベッジが逃げろと言うのも分かる。明らかに格上の相手だ。惜しくもない命だが、タダでくれてやるのも癪だ。背を向け全力で駆け出す。
「ねぇ、あたし言ったよね? 跪けって」
常人の何十倍の速さで駆けたが、一瞬で回り込まれた。
「チッ」
『相棒、やめろっ!』
首元を狙ってカオスとラベッジを振るう。しかし、呆気なく両手首を掴まれ──。
「グフッ」
ピンク頭の膝がみぞおちに突き刺さる。肋骨と背骨が折れ、内臓がいくつも破裂したのが分かった。血と一緒に内臓だったものを口からぶちまけながら、何十メートルも吹っ飛ぶ。両手首から先はピンク頭に握られたままだった。
『相棒ッ』
『マスターッ!』
カオスとラベッジの声が遠くから聞こえる。復元したら呼び戻すから待ってろって。
「へー。本当に『不死』のスキル持ちなのね。使徒様ぁー、『不死』ですっ」
あと1秒で復元して動ける。その1秒が永遠にも感じる長さだ。使徒と呼ばれる金髪男がゆっくりと聖剣を持ち上げて、近付いてくるのが見える。あの剣で斬られたらダメだ。直感的に分かってしまう。
「……」
最後に喋ることもできない。動けるまであとコンマ数秒。しかし、切っ先が届く方が先だろう。どうやら僕はゲームオーバーのようだ。
「はい。すとーっぷ。そこまで」
消え去ることを悟った瞬間、黒髪を束ねた和服の武士みたいなおっさんが、紫炎を纏う刀で割って入ってきた。
「邪魔をするな、亡霊」
「まったく仕事熱心だねぇ、執行者さんは」
二人は知り合いのようだが、僕は助けてくれた亡霊武士に見覚えもなければ、助けてもらう心当たりもない。
「邪魔するなぁぁぁあ!!」
アホピンク頭は沸点が低いようだ。僕の両手を投げ捨て、どこからか取り出した直剣を構えて、武士に斬りかかっていく。
「おい、三下。身の程弁えろや」
「ぐぁぁあああ!!」
武士の炎刀はメリルの直剣をいともたやすく断ち切り、その刀身から舞う紫炎がメリルの全身を覆い尽くす。
「……
使徒が何かスキルを使った瞬間、世界の景色がガラリと変わる。今までの街並みは消え去り、剣が幾重にも周りを囲む物々しくも荘厳たる空間へ。
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