第28話 お着替え

「どう?」


『あー、げふっ。やっぱ相棒のスキルと俺たちの相性は抜群だな』


『コホン。ご馳走様でしたマスター。今回のゲームが始まってから一口も食べてませんでしたので、つい私ったらはしたなく……』


「うんうん。二人とも満足したなら良かったよ」


 僕としても試し切りができて良かった。カオスとラベッジの切れ味は初期装備のナイフと比べるまでもない。皮膚や骨はもちろん、金属すら豆腐のようにスパスパと斬れてしまう。


『ふぅー。うし、相棒。次は着替えだ』


「はい?」


『えぇ、カオスにしては良い提案です。同意します』


「え? 僕?」


『『そうだ(はい)』』


 何やら着替えなきゃいけないらしい。確かにライフルで両袖が吹っ飛んで、ショットガンで服は穴だらけだ。


「ま、そうだね。こんな格好じゃ流石にね。よし、服屋に行こうか」


 帰りはビルを駆け下りる。いよいよ無茶苦茶だ。


「その内、飛べるかも知れないな」


『カカ、垂直は難しいが、横になら数十メートルは跳べるぞ』


「ちなみに二人が浮いていけば僕も浮けない?」


『それは難しいですね』


『あぁ、そうだな』


 どうやら難しいらしい。壁を駆け上ったり、駆け下りたりしている感じだと僕一人の体重くらい平気そうなのだが。


「そうなんだね」


『あぁ、見た目がダセェ、NGだ』


『えぇ、マスターにそんな間抜けなことはさせられません』


「あ、はい」


 どうやら物理的には可能だが、絵的にNGらしい。まぁ確かに僕が両手を万歳してふよふよ浮いていくのは絵的に美しくないのには同意だ。


 そんなことを話している内に服屋に到着した。と言っても自動販売機と試着室があるだけなのだが。


「えーと、ユニークキルポイントが400越えてるからいつもの服は毎日交換でき──」


『これだ』


『これね』


「え……」


 着慣れた初期のカジュアルな服を交換しようとしたら、カオスとラベッジが勝手に自動販売機を操作し、ある服を提案する。


「正気? マジで言ってる? 二人してからかってるのか?」


『大マジだぜ?』


『いたって真面目です』


 二人が指すのは、『血塗られた漆黒のヴァンパイアセット』とかいう厨二病全開の衣装である。


「…………」


 見れば見るほど、血の気が引いていく。黒のカッターシャツにワインレッドのベスト。黒のスラックスにワインレッドのショートブーツ。そして上着はフード付きの黒のレザーロングコートだ。


『試着するのはタダだぜ?』


『マスター、是非』


 カオスだけならともなくラベッジまで、こう乗り気だと断りづらい。仕方ないので試着してみる。


「……………………」


『これこれ、これだよ相棒!! いやぁ、ようやく相棒って感じだなッ!! ギャハハハ!!』


『マスター。とても、とてもお似合いですっ』


 カオスは唾を飛ばしながら喜び、ラベッジに至っては血の涙を流して感動している。


「まぁ、想像したよりは似合ってはいるね……」


 滅茶苦茶ダサいかと思ったが、着てみると意外とそこまで悪くない気もしてくる。


『よし、お買い上げだ!!』


『えぇ、お買い上げですっ!!』


「これいく──消費キルポイント1000!? キミたちより高いじゃんっ。特殊効果か何かあるのっ!?」


 まさかの怨嗟の呪双剣より高かった。ちなみに特殊効果はついていた。流石にね。対物理、耐魔法、破れにくく、ストレッチ性に優れ、温度、湿度管理も常に一定で快適、破損時はオートで修復し、フードもズレない、そして毎秒クリーニング効果があるとのこと。


「いや、確かに優秀かもだけど値段には釣り合わな──」


『マスター……』


「ック」


 で、結局買ってしまった。ラベッジの切なげな声に負けた。


「だけどムカつくくらい快適だね。この服」


 特殊効果の快適さは一級品であった。こんな動きにくそうな服なのにまるで抵抗を感じないどころかむしろ動きやすくサポートされているようだ。靴もすり減らないし、グリップもよく効いてるようで高速移動や長距離ジャンプも格段にしやすくなった。


『だろ?』


「……」


 ドヤ顔(?)のカオスに対しては返事をしてやらない。


『マスター、お気に召さないでしょうか?』


「……」


 不安げなラベッジにも返事を返さない。見た目はどうあれ、性能には満足してしまったことは見透かされているのだから、不要な問答だ。

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